ANSWER(8)


 身体に感じる直接的な痛みならばどんなものでも、耐えられる。が、意識を犯されることはプライドが許さない。
 いっそ舌を噛み切ってこの茶番を終わらせてやろうか、とも思ったが、目敏くそれを見抜いたマフィア達を取り仕切る男のせいで、猿轡を噛まされ自ら命を絶つことすら出来なくなってしまった。
 生理的に溢れる涙で歪んだ視界に、ニヤニヤと楽しそうにこちらを見下ろす男が映る。
 片手に持っている小さなカメラにこの狂った饗宴を収めているのだろうか、ギリ、と歯を噛み締めるとますます嬉しそうな笑顔を向けられた。

「いい顔だ。さて、協力のご褒美にもう一本美味しい酒を御馳走してあげようか」
 何だと?と訝しげに顔を歪めたと同時に身体の奥でドクンと、突き立てられていた欲望が弾けて熱い飛沫が広がった。
 何度目かも分からない汚れた欲望に身体の奥を濡らされる感覚に、きつく目を閉じて只管に波が過ぎるまで耐える。
 繋がれた部分から呑み込みきれなかった粘液が太腿を伝いポタポタと零れ落ちる感覚に耐え難い嘔吐感を覚え、そのまま白濁と、血が点々と飛び散った革張りのソファに猿轡の端からダラダラと胃液を吐き出した。
 血と精液と自分が吐き出した吐瀉物に塗れ、汚れた頬を力尽きたようにソファに預ければ手放しかけた意識を再び下肢に押し込まれた熱塊に無理矢理呼び戻されてしまう。

 許容量を遥かに越えた感覚に、精神がじりじりと蝕まれていく。
(もう……・)
 堰を切ったように溢れる涙は痛みからでも、悔しさからでもない。単なる生理現象だ。
 そう自分に言い聞かせなければこれ以上耐えられそうにない。

「もっと大きく脚を広げてごらん。それじゃ満足に呑めないだろう?」
 男の腰を挟み込むように閉じられていた脚を割られ、内部に感じていた圧迫感がずるりと引き出される感触に背筋を震わせる。
 これ以上一体何をされるというのだろうか。薄らと瞳を開いてそれ、を確認した瞬間悔しさに上手く言葉を紡ぐことが出来ないながらも男を口汚く罵った。
「それは、どうも。ガンマ団の坊やがお迎えにいらっしゃるまで、君は手厚くもてなしてさしあげますから…ご心配なさらずに。暴力は嫌いですからね、五体満足で帰してあげますよ。精神の方は保証出来ませんけど」
 男が片手に掲げた小振りの酒瓶には嫌でも見覚えがある。
 数時間前自分が飲み干し、この失態を招いた直接の原因でもある忌々しい毒だ。が、何度も同じ手にかかる程馬鹿ではない、と歯を食いしばり、きつく口を閉じた自分に男は微笑を湛えたまま囁いた。

「恋文を貰ったことはありますか?」
 グッ、と散々弄ばれた部分に押し当てられた冷たい感触に血の気が引く。
 目の前に近づけられた男の顔から視線を外すことが出来ず、視覚で確認することは叶わないが自分の身体が呑み込んだものの形は嫌でも認識することが出来た。
 硬く冷たい瓶の口が熱く溶かされた体内に捻じ込まれ、中に湛えていた得体の知れない酒を直接注ぎ込まれる。
「あああああっ……くっ、ぁ………ッ」
 スルリと猿轡が取り払われ、仰け反り悲鳴を上げた口内に節が目立つ指が押しこめられ並んだ歯列をかたい指先で辿られた。
「恋文の最後に、女性が紅を引いた口唇で遺す接吻の印、それから花言葉を託したドライフラワーの類。あれはいい。ああいった情緒があるものが好きでね」
 瓶を銜え込んだ下肢の鈍痛と、口内を無遠慮に指で辿られる息苦しさに新たな涙が滲む。
 そして男の指先が綺麗に並ぶ歯の一つにかけられ、そのまま力を篭めて引き抜かれる衝撃に全身を強張らせ、意識を完全に手放し周りの音全てを暗闇に沈めた。

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