ANSWER(5)


「これはこれは、随分と威勢がいい美人さんだね」
 何だ?と訝しげに眉を顰めた瞬間男の隣に控えていた黒いスーツに逞しく鍛え上げられた肉体を包んだ欧米人に頬を張られる。
 一瞬チカチカと目の前で火花が散るような勢いで思い切り殴られ、口の中を噛み切ってしまったのだろうか舌の上に鉄の味がじわりと広がった。
「暴力は好きじゃない、下がれ。・・・・失礼、いきなりの非礼を詫びるよ。いや、折角ファミリーの仇討ちを出来るかと思っていたのに、君に邪魔されたからね。皆気が立っているんだ。」
 許してやってくれと笑みを浮かべる男に、頭の中が疑問符で一杯になる。
「2日前、仲間がガンマ団に殺された。どうやら話によれば僅か3人の兵に国ごと滅ぼされたらしい」

 成る程、とようやくその説明に納得がいった。
 今回の任務は規模が小さかった為、実戦はロッド、G、そしてリキッドに任せて、自分は専ら裏での情報操作と偵察に徹していたゆえに彼らに情報が伝わらなかったのだろう。
 特戦部隊が出動するということは、攻撃目標を全て破壊し尽くすことが任務そのものでもある。
 攻撃目標全破壊、勿論それは建造物や兵器工場に限らず生きとし生ける者も全て含まれているので、一夜にして廃墟に変えられた国をガンマ団の仕業だ、と噂するものはあってもその詳細まで知る者はほとんどいないのが現状だ。
 香港マフィアの情報網には内心驚いたが、然程気にすることではないだろう。
 どうせ、そのパイプも今ここで断ち切られるのだから。
「馬鹿な女のせいで折角情報が入ったあのイタリア人の男を逃がしてしまいました。が、君を連れ帰ってきたことだけは、褒めてあげてもいいくらいだ」
 ニィ、と笑みを深くしたかと思えば足元に転がる女の屍骸を無造作に蹴飛ばした。
 そして革張りのソファの背凭れに腕をかけ、微動だにせず彼を見上げる自分の頬に、金の太いリングで彩られた長い指がかけられる。
 顎を掬い上げられるように上を向かされ、そのまま返り血で汚れた頬を撫でるように指先でゆっくりと辿られた。
「君を餌につければ、あの男は果たして食いついてくれるかな?」
 ハッ、とあまりの馬鹿らしさに侮蔑の表情を浮かべた。
 愚かな、そんなことを考えるよりも念仏でも唱えておけと未だ痺れが残る指先に念を篭める。



「……っ?」
 おかしい、こんな筈はと思っても、現に何時もならば灼熱の炎を生み出す筈の力が全く働かない。
 何度試してみても業火はおろか、ともし火さえ生み出すことが出来ない。
「残念です、折角ガンマ団の為に特別に調合をした酒は結局君が飲んでしまうし。
あれは君のような普通の人間が飲んでも中に仕込んだ薬品のほとんどが無駄になってしまうんだよ」
 グ、と口唇を噛んで今更ながら己の行動を呪った。炎が使えず身体の自由も満足に利かない状況では一気にこちらの方が分が悪い。
 悔しさで顔を歪めながら、男を睨みあげると彼ははじめて心底嬉しそうな笑顔を向けて淡々と続けた。
「それじゃ、早速お仲間に宛ててメッセージを頂きましょうか。捕まってしまいました、助けて下さい、って・・・宜しくお願いします」
 ふざけるなと怒鳴ろうとした瞬間、それまで両脇で大人しく控えていた男達に、手荒くうつ伏せにソファの上に押し付けられた。
 呼吸が出来なくなる程乱暴に身体を曲げられ、ゲホゲホと咳き込む様を嘲笑うように身体に纏っていた革のジャケットが取り払われていく。
「何もメッセージは書面だけではないからね。映像の方が、仲間がどんなもてなしを受けているのか解かり易くて良い。」
 2人がかりで押さえ込まれ、僅かな抵抗を試みる度に容赦なく頬を殴られ腹を蹴られる。
 下衆が、と震える唇で告げた言葉に奴は楽しそうに微笑み、そりゃどうもと小首を傾げて応じてみせた。
「きれいな顔してますが、こっちの方は初めてですか?」
 上半身を露にされ、下肢を覆う布に手をかけられたところで彼等の目的にようやく気づき、驚愕に目を見開いた。
 冗談じゃない、こんな経験は一生知らずに終わらせたいに決まっている。
 力がうまく入らず、弱々しいながらも必死で抵抗する自分を楽しげに見つめる男が咥えた煙草の先から紫煙が立ち上る。
 「初めてですか、これは・・・楽しめそうですね」
 抵抗も長くは続かず身体に纏っていた衣服を全て取り払われ、命令のままに行為を続けるボディガートの男に両足首を捕まれ大きく開かされた時、初めて絶望を感じた。



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