ANSWER(4)
『ですから、私は御命令どおりあの男に確かに運んだのですが予定外の事態が起こり・・・』
ガンガンと痛む頭に響く甲高い女の声が耳に障る。
五月蝿い、と思ったときには聞き慣れた重い銃声がすぐ傍らで響き、そして床に何か重いものが落とされたような鈍い音が響いた。
生暖かい液体が飛沫のように顔に飛び散ったのが瞳を閉じたままでも解かる。これは、この感触はずっと昔から自分も知っている、体内を廻る血の温かさだ。
『無能な癖に言い訳ばかりする輩が一番嫌いでね』
どうしたものか、と思う。
どうやら、まんまと自分はあの女にはめられたらしい。正確には標的は自分ではなく、同僚であるロッドの方だったらしいが、自分の行動が彼女の計画を狂わせそして命を奪う結果になってしまったらしい。ご愁傷様だが、自業自得だ。
そこまで痛む頭で理解し、取り敢えず為すべき事はと、瞼越しでも刺すような眩しさを伝えてくる今の状況を把握するためにゆっくりと瞳を開いた。
絢爛、と褒め称えるには少しばかり趣味の悪さが伺える内装に、黄金で出来た鳳凰の像。
自分が寝かされている椅子は革張りで、予想どおり血溜りがところどころに出来ている。
きっと、足元あたりに頭の吹き飛んだ哀れな娘の屍骸が転がっているのだろう。
そして部屋の中をうろつき回るお世辞にも柄がいいとは言えない男達は皆、拳銃を携帯し狂犬のような目で部屋の奥に座っている男に視線を向けている。
こちらからは広い背中しか見えないが、きっとこの男が組織を束ねる頭なのだろう。
何時までも生臭い血に塗れたまま寝たフリを決め込むつもりはない、とゆっくり革張りのソファに上体を起こした。
まだ頭はガンガンと痛み指先の痺れもとれないが、いざとなれば部屋ごと炎で燃やし尽くしてしまえば良い。
弾丸なども、発砲される瞬間を見切れば身体に届く前に熔かしてしまうことなど簡単だ。
ゆらりと身体を起こした自分に一斉に銃口が向けられる。ほう、と彼らの反応に心の中でほくそえみ単刀直入に、まだこちらに背を向けたままの男に口を開いた。
「チャイニーズマフィアか」
問いかけに答えずゆっくりとこちらを向く男の顔に見覚えはない。頭と呼ばれていた割には年若いが何者をも寄せ付けない一種異様な空気を纏っている。
口元は笑みを形作ってはいるが、瞳の奥に感情は無くゾクリと嫌な寒気が背中をかけ上がった。あまり、深入りはしない方がよさそうだ。
力のある、つまりガンマ団に危険視されているチャイニーズマフィアならば、配られた資料にあった面子は大抵把握している。
取るに足らない相手ならばこちらが名乗る必要もなければ、わざわざ一人ずつ始末する必要もない。
やはりこの部屋ごと炎に包んで全員纏めて焼け死んで貰おうかと思った矢先に、男が席を立ちゆっくりとこちらに近付いて来た。
こいつは相当の馬鹿か、と一瞬面食らい全ての動作を止める。
両脇に欧米人らしきボディガードを従えていたとしても、わざわざ自らガンマ団特戦部隊に近づいてくるなど自殺志願以外の何者でもない。
それとも、自分達のような特殊能力保持者なのだろうか。まさかとは思うがその可能性も完全には否定できず、痛む頭に邪魔されながら思考を巡らせているといつのまにかソファの前に立った男が凍るような笑みを浮かべて自分を見下ろしていた。
- 29 -
[*前] | [次#]
ページ: