雛(ロドマカ+特戦)1


「あぁぁっ、もうやってらんねーよ!ンだよ、なんでいつもいつも俺ばっかなんだよ」
 喚き散らしながらガンッと勢い良く鋼鉄で出来た船の内壁を蹴飛ばし、一頻り直につま先で受け止めたその痛みに蹲った後、怒りで肩を震わせながら自室に駆け込む癇癪持ちのアメリカ人に思わず苦笑が零れた。

 若いっていうのは、羨ましいねぇ、と隣で今日の任務に使用した弾薬の残量をチェックしている同僚の中国人に声をかけると、サボるなとキツく睨まれてしまった。
「だってコレ、リキッド坊やの仕事だろ〜?なんで俺らがやらなきゃいけねーのよ」
 煤に塗れた手で少しの不備も許されない銃火器の手入れを黙々と行っている同僚に不満を露にして告げても、事も無げに切り返される。
「一旦ああなったボーヤは聞く耳もたんだろ。ならば、私達がやる他あるまい」
 組織から給料を貰っている以上、その金額に見合うだけの働きをすべきだ、という労働者として当然の務めをリキッドに説こうにも、現時点で月額10円しか貰っていない彼をその理論で納得させることは到底無理だろう。
 それにしても、今度の新入りは随分とからかい甲斐がある奴だ。
 奴が入ってきてから、退屈とは無縁の毎日を送れていることには一先ず感謝したいぐらいである。

 マーカーの手からひょい、と銃を奪い油を含ませた布を手にとる。
 こちらはどちらかといえば、自分の方が得意分野だ。

 チラリと横目で窺われたが、仕事を奪われたことに不満は無いらしくフンと鼻で笑った後に今日を一日費やした任務。明日総攻撃をかける街の下見と、攻撃範囲には含まれていないが近辺にある軍事工場の破壊、に関する報告書を几帳面な字で綴り始めた。
 先程から一言も喋らず、ソファに深く腰掛けたまま同じように銃の手入れを行っているこちらもクソがつく程真面目なドイツ人にやれやれ、と肩を竦めて見せる。

 つい先刻、船に帰還した早々に鬱憤を爆発させた坊やの言い分は確かに分からないわけではない。
 経験の浅いどころの騒ぎではない、全くの素人の自分に先陣を切らせてあんたらは罪悪感がないのか、と。
 怒りと興奮で顔を真っ赤にしながら喚き散らしたかと思えば、絶対ここにいたらいつか殺される、と青褪めるまるでリトマス試験紙のような反応に腹を抱えて笑ってしまったのが不味かったらしい。
 泣きそうな顔をした後で、八つ当たりのように勢い良く船の内壁を蹴飛ばし、自室に閉じこもる、最早恒例となりかけているパターンの繰り返し。
 この後で天岩戸に閉じこもったリキッドが、力づくでハーレム隊長に引きずり出される顛末も既に見慣れた光景になっている。



 進歩のねぇヤツ、と間も無く目にすることになるであろう光景を思い浮かべ、片手で顔を押さえながらクックと笑いを噛み殺す。
「ンでも、なかなか筋はイイんじゃねーの?即実戦であんだけ使えるヤツもなかなかいねぇっしょ」
「…毎日が命賭けだからな」
 珍しくマーカーが口元に小さく笑みを浮かべ、向かいに座ったGも静かに頷く。


- 81 -


[*前] | [次#]
ページ:




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -