毒(ハレマカ)3


「…、以上…・です、隊長。ボーヤが自業自得で肩を脱臼したのみ、私どもは通常通り…ひ、ぁぁッ」
 体内で暴れる熱塊に苦しめられながらも報告の粗方を終えたところで、一際強く下から貫かれ崩れ落ちそうな身体を支える為にグッと震える両脚に力を篭めた。
 楽しげな表情で己を見つめ、時折悪戯を仕掛ける子供のように身体を苛む主が口元に浮かべた笑みを深める。
 上出来、と僅かに口唇を動かし、だらりと両脇に垂らされた己の腕を不意に掴み、勢いをつけて上体を起こした。
「…・ッ!」
 後ろに倒れそうになる身体を腰に廻された腕で抱えられ、胡坐をかくように寝台を軋ませたハーレムの首に咄嗟にしがみ付くように腕を廻す。
 掌を擽る金色の長髪をそっと指先にするりと絡め、引いた。
 この髪に触れ、この熱を抱ける者は己だけ。


 少なくとも、現時点、では。


 先程からギリギリと胸を締め付ける惰弱な感情を振り払うように2、3度首を横に振り、己から噛みつくような口付けを仕掛けた。呼吸すらも奪うように幾度も、幾度も角度を変え少しだけ乾いた薄い口唇に自分のそれを重ねる。離れ、また重なり合う度に深さを増す口付けを呆れるほどに繰り返し
漸く互いの瞳を見つめあいながら離れた時には赤く濡れた口唇から荒い呼吸が吐き出された。
 口唇を繋ぐ透明な糸がぷつりと途切れ、消える。
「何だ、今日は随分と乗り気じゃねぇか」
 揄うような物言いも単なる音、にしか聞こえない。何時もならば皮肉の応酬に繋がるこの言葉にも主が満足するような反応を返すことは出来ず、互いの身体がほんの一時でも離れていることを恐れる幼子のような強さで再び主に縋りつき、がむしゃらに口唇を這わせた。
 気紛れな飼い主の愛情を自分だけに繋ぎ止めておく術など、野良猫の自分に分かる筈もなく。
「マーカー」
 その穏やかな低い声も、背を抱く大きく温かい掌の感触も、煙草の残り香を灯されるような接吻も。
「…ハーレム、様」
 片腕を掴み揚げられ、主に何一つ隠すことも許されず無様な姿を晒し熱塊を咥え込んだままの腰を揺らめかした。


「オメェ、もう一つ俺に報告すること残ってんだろ」
 サラリと指の隙間から流れ落ちる漆黒の髪を撫でられ、息が触れる距離に顔を近づけられ、そして耳元で囁かれた言葉に背筋が震えた。
 何でしょう、と瞳で訊ねながら崩れ落ちそうになる身体をハーレムにしな垂れかかることで繋ぎ止める。
 この距離で直接耳の中に注ぎ込まれる声は極めて麻薬に近い陶酔感を与えられるものだ。
 じわりじわりと身体の奥深くを侵食して気付けば四肢の末端まで支配される形を持たぬ毒。
 それに気がついてしまったときにはもう既に手遅れで、後に残るものといえば毒に侵されぐずぐずと成すすべもなく崩れ堕ちる自我と甘い蜜によく似た腐液のみ。
 頬を包み込む掌の感触にうっとりと瞳を瞑れば目の前の蒼い目が楽しげに細められた。

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