FAKER(ハレマカ)9


-L-



 言葉が、見つからない。

 流石に、これはどうしたものかと自分と同じく朝一番に顔をあわせるGを見上げ、無言で表情を窺えば彼も明らかに動揺を浮かべている。
 ・・・・気持ちは良く分かる。
 流石にこれを目の当たりにしたら、いくら彼でも普段通りの無表情は貫けないだろう。
 自分も普段ならもうとっくに準備が済んでいる朝食の支度に、起床して1時間経った今でも取り掛かれないぐらいだ。
 仮にも先輩なのだ、笑う・・・ことは失礼にあたるだろう。が、この光景から笑い以外のどんな感情を生み出せというのだろうか。許されるものならば今すぐに腹をかかえて床に突っ伏したい。

 ひくひくと引き攣る頬の筋肉に必死に堪えながら、ガチャリと扉が開く音に背後を振り返ると珍しく遅いマーカーが眠そうに瞳を擦りながら部屋に入った来たところだった。
 いつも自分やGよりも遥かに早く起きているのに珍しいな、と彼を見つめ続けると自分の予想どおり、一呼吸置いてソファに踏ん反り返って座る物体に気付き、手に持っていた新聞の束をバサリと落とし如何とも表現し難い表情のまま固まっている。
「・・・それは何の冗談だ?」
 それ、を指差し呟かれたマーカーの言葉に、堪えていた自分も我慢の限界を越しプーッと思い切り噴出し床に蹲った。
 Gも肩を震わせて声を出さずに笑っている。笑うなと言う方が無理な注文だろう。
 昨日まで、自慢の金髪を風に舞わせることが何よりも好きだった男が一晩明けてみれば見事なスキンヘッドに変わり果てているのだから。


「よーぉ、オメーら随分とはえーじゃねぇか、感心感心。オッ、ロッド、おめえ案外似合うじゃねぇか。随分と男っぷりが上がってんぜぇ」
 不貞腐れたようにソファに座っているロッドの頭をナデナデと無遠慮に撫で回し、ガハハと笑う隊長にその場にいた全員が、誰の仕業で彼がこうなったのかを理解したに違いない。
 ロッド本人はもう自分達に怒鳴り散らす気力もないのか、憔悴しきった表情で目の前の何もない空間を見つめている。
 そこで漸く、これ、が昨日隊長が言っていた喧嘩両成敗の仕置きを行った結果だと理解し、それにしてはマーカーの方は被害を蒙っている気配はないなと首を傾げた。
 まあ、どちらにしても自分の愛する食器達の仇は取れた、と笑いすぎて涙が滲んだ瞳をゴシゴシと擦る。
 スキンヘッドに刈上げられたロッドには少し同情もするが、それも自分が撒いた種なのだ。



 一頻り笑い転げ、さていい加減朝食の準備でもしようかといそいそとエプロンを身につけてキッチンに向かおうと足を踏み出した瞬間
 聞こえてきた隊長の御機嫌な一言に、一瞬にして奈落に突き落とされた。

「どーだ、気が済んだか?リキッド。いやー、オメーの頼みとはいえ可愛い部下達を苛めんのは心苦しかったぜぇ」

 ・・・・・・・・今、何と仰いましたか獅子舞様。

「ほぅ、これは貴様が望んだのか。随分と面白いことを考えるものだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ボーーヤ、後でちとバリカンもって、俺の部屋来いや・・・じっくり話でもしようじゃねぇか、ん?」

 背後に感じる自分以外の同僚3人、特に2人分の殺意にも似た視線を背中で受け止め振り返ることも出来ずにだらだらと冷や汗が背中を伝うのを感じていた。

 それ以降、益々自分に対する同僚の風当たりが厳しくなったことは言うまでもない。 触らぬ獅子舞に祟りなしである。

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