bed in


 連日連夜の無差別虐殺にいい加減感覚も麻痺してきた頃
 最後まで団に刃向かうことを貫き通した馬鹿者達は国民の四分の三を戦火で失った末に内乱で指導者を亡くし国家としての機能を失い、集団は文字通り散り散りとなり、其の結果国が一つ地図上から消滅した。
 任務完了、大量の血が乾き罅割れた大地に吸われた惨劇の結末は何時も味気ない文字で綴られ、積み上げられた屍に果たして見合うものなのか判りかねる報酬を受け取り、また次の戦場へと血の匂いに誘われ翼を広げる。


 そんな繰り返される日常に、ふと不意打ちで訪れるエアポケットのような空白は正直何時も持て余してしまう。
 勿論休暇が嫌な訳ではない。
 肉体は戦場で酷使され、休息を欲しているのは当の本人が一番良く分かっている、が
精神は何処に安らぎを求めれば良いのか。
 それが理解らないから、苛々する。
 いっそのこと休暇の間中教会で神に懺悔し続けるというのはどうだろうか、と傍らに身を投げ出している同僚に人差し指を立てれば下らないと一蹴された。
 それはそうだろう、休暇の間中飲まず食わずおまけに眠らずで祈ろうとも己が今まで犯してきた罪を余さず述べる時点で時間切れになってしまうだろう。
 悔い改める暇もなしに休暇が終わり、次の殺戮に駆けつけなければならない。
 それなら掻い摘んで懺悔するってのはどう?と代案を述べたが好きにしろと鼻で哂われてしまった。ダイジェストで罪を償う馬鹿が何処にいる、そしてそんな馬鹿を相手にする程神様とやらも暇ではないだろう、と。

 
 それならば綺麗な海でも見にいこうかと誘えばこちらも至極あっさりと断られてしまった。
 山は?行って一体何をするのだ、そう返されて口を噤む。確かに己達にアウトドアを楽しむ趣向など無い。強行したところで途方に暮れることは目に見えている、有意義な休暇の過ごし方とはいえないものだろう。


 ぐちゃぐちゃになった思考を振り払うように大きくベッドの中で身体を伸ばし
 嗚呼、獅子舞も一ヶ月前ぐらいに言っておいてくれよなと上司の名を出し大袈裟に嘆く。
 寝返りをうち白いシーツが複雑な波を描く、純白の海にふたり浸りながら早朝の乳白色のひかりに瞳を細めた。
 昨夜いきなり言い付けられた今日から一週間の休暇、さて何をしようかと考える暇もなく空白の時間に呑み込まれ、結局久方振りの休暇一日目から既にぼやきを落すだけという情けない大人の休日に溜息が出そうだ。


 隣でまどろむ白いシーツに包まれた愛する同僚の白い肌に目を落とし、ぼんやりと頭の中に浮かんだ言葉をそのまま口唇に乗せてみる。
 久しぶりに、一緒に過ごそうか。
 その言葉に美貌の中国人が形の良い眉を顰めてこちらに視線を向けた。何を馬鹿なことを。
瞳がそう言っている、そりゃそうだろう今までだって暇さえあれば顔をあわせ共に過ごしているのだから。でも、たまには特別な過ごし方をしても良いだろう?
 今日から一週間、ずっとベッドで過ごそうよ。ここで、この場所で自分と二人きりで真っ白な海で溺れてカラダが溶け合うまで。
 随分と手抜きなバギズムの真似事だな、と呆れたように呟く愛しい人に、肘をつき半身を起こして優しい口付けを落としそれ以上の可愛らしくない言葉達を遮った。
 いいんだよ、ベッド・インはラブアンドピースの象徴だろうがどうせなら俺達も世界で最も有名な汚れた英雄みたいに愛に浸かりきる一週間を送ってみようじゃないか。
 返答など聞く必要はない。
 猫のように瞳を細め、フンと小さく笑った恋人が己の首に腕を巻きつけ、淫らに細腰を擦りつけてきた。お生憎様、あからさまな誘いには乗らないのよ、今の俺は。
 高尚な休暇の有効利用だろう?と互いに鼻先をつけたまま首を傾げれば、見惚れる程に綺麗な顔で彼が笑った。
 

 さあ、真っ白な一週間を共に過ごそう
 この狭い空間でも出来ることは無限に見つかる。
 先ずはキスを口唇がはれるまで繰り返してみようか。
 そして存分にセックスを楽しもう、寝て、起きて、そしてまた身体を重ねて。
 いろんな話もしなくちゃいけないな、互いを理解するには考えてみれば一週間なんて短かすぎるではないか。
 勿体ない、休暇はもう始まってしまっているのだから。
 どこへも行かずに

 裸のままで

 いろんな方法で愛を確かめ合う

 誰にも真似の出来ない 特別な一週間を共に過ごそう。
  

 fin

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