king of my world(4)


「何故だ」
「何が」
 何を問うているのかよく分からない質問に、簡潔に聞き返すと肩からダラリと垂らされたままだった彼の腕が自分を抱くようにゆっくりと廻された。
 どうやら、諦めて背負われることに同意してくれたらしい。
「何故助ける」
「はぁ?・・・仲間だから」
「私ならば、貴様を見捨てているぞ」
「・・・・・・・お前、あっさり言い切るなよ」
 返した答えに、未だ声色に不満を滲ませながら言い返すマーカーにがくりと肩を落とす。
 冗談など言わない彼のことだ。本気で火葬にされた上であの場に置いていかれるのだろう。
しかし、それもまた彼らしいかと背負う手に力を篭めなおした。
「記録に残んねぇなら」
 何だ?と問い返すマーカーには構わず、そのまま続けて吐き出すように叫んだ。
「記録になんか残らなくても、俺がお前の記憶に残ってりゃ構わねえ」
 互いの胸に生きた証が記憶として刻み込めるならば、それで充分だと笑い、先程受け取った彼のドッグタグを後ろ手に握らせる。未だ、これを手放す時ではないだろう。
「・・・貴様の記憶力などあてになるか」
  こんなところで死ぬつもりも、死なせるつもりも無い。
 冷たい彼の指先をタグを渡すついでにギュ、と強く握り締め、それから暫く走り続けた後にやっと視界に捉えることが出来た見慣れた船の姿に安堵の溜息を零した。




 ここまで来れば後はあの上司の指揮下で幾らでも態勢を整えることが出来る。
 どうしようもなくケチで、年甲斐も無く我侭で自分勝手な獅子舞だが戦場では間違いなく信頼出来る男だ。

「へへっ、やりぃマーカー。やっぱ俺の言った方向であってたろ」

 背中に縋りつくマーカーに余裕気に声をかければ、返事の代わりに熱い吐息が首筋に纏わりついてきた。
 その感触にゾクリと背を震わせ、傷と豪雨に打たれて濡れ鼠になったせいで熱をもった身体をしっかりと担ぎなおしこれは悠長にしていられないと全速力で船に向かう。

 無意識なのか、散々悪態をついていたつい先程まではおざなりに廻されていた腕が、縋るように肩に抱きついている。
 全く、こんな酷い怪我で意識を失うまで意地を張り続ける彼にはある意味感心する。
 さて、彼に応急処置を施した後でやられた分はきっちりやり返してやらねぇとな、と唇の端を吊り上げ、規則正しい息遣いを繰り返す背中の温かい存在を振り返り 小さく口唇を押し当てた。


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