king of my world(1)


「――――と、後はこれが制服だ。隊長の方針でスペアは一着しか渡せないから紛失や損ねた場合には自分で発注をかけてくれ。・・・勿論自腹だがな。ほかに、何か質問はあるか?」

 バサリと無造作に放り投げられた真新しいレザースーツを最後に両腕で受け止め、軍から支給された身の回りの備品を一通り見渡し、何もねぇっす、と気のない返事をしてみせると
物資担当らしき男は忙しそうに、小脇に抱えたリストを捲りながら次の仕事へと足早に去っていった。


 小さな会議に使われる殺風景な部屋に一人ポツンと残され、欠伸をしながら受け取ったばかりの制服、何の飾り気もない真っ黒のレザースーツを広げて己の身体に宛がい、口唇の端に笑みを浮かべる。
 まるで喪服じゃねぇか、と適当に肩に羽織り、床の上に投げ出されたままの支給備品をかき集め明日から己が従うことになる隊長様とやらに挨拶にでも行くか、と腰を上げた途端にポロリと足元にGの刻印入りのAFナイフが転げ落ちた。
 身を屈めてそれを拾い上げ、まじまじと眺め眉間に皺を寄せる。
「碌なもんねぇな。ナイフなんておもいきし錆びてんじゃねぇかよ・・・・いつの遺物だこりゃ」
 一つ一つ、状態を確認する度に顔が引き攣る。どうやら新しい主は恐ろしい程の倹約家らしく、部下の身の安全よりも経費削減の方に力を入れるタイプらしいことは支給された物資の年季の入りようで理解出来た。
 家庭の主婦としてなら褒め称えられるべきなのだろうが、戦場での上司としては出来ればこれは勘弁願いたい。


「ま、俺には関係ねえか。ナイフなら自前のがあるしなぁ・・・」
 バリバリと無造作に伸ばした蜂蜜色の金髪を指に絡めながら後頭部を掻き、既に錆びに塗れてどう見ても使い物にはならなくなっているナイフの刃を、指先が巻き起こした小さな鎌鼬で刎ね飛ばした。
 小さな金属音をたてて床に転がる刃に視線を落とし、やれやれと大きく伸びをする。
 この分では他の武器や備品も大方似たようなものなのだろう。逐一確認して其の度落胆するのも馬鹿らしいと緩慢な動作で制服を身に付け、同じく真新しい認識票をポケットに捩じ込む。
 流石にこちらは錆一つない綺麗な金属板だ。が、何かおかしい。半ば押し込みかけたそれを再び引き出して目の前に翳す。
 細い鎖で繋がれ、制服と同じ黒いサイレンサーの中に収まったそれは静かに窓から差し込む西日に反射し、きらきらと輝いている。
 どこかがおかしい、と感じるのだが明確にその点を指摘することが出来ず、首を傾げてみるものの一向に答えが出る気配はない。 自慢ではないが不真面目さでは数多くの団員を抱える組織の中でも5本の指に入るだろう。
 本来、在るべき姿の認識票など記憶のどこを探しても見つかりっこない。
「・・・?あれ。・・・・・・・ま、いっか」
 それに、そう悩むほどのものでもないだろう。今までだってこんなもの、アクセサリ代わりにしか使っていなかったのだから、とあっさり割り切り、再び無造作にポケットに収め、赤い血のような夕焼けの差し込む部屋を後にする。



 それ、を目にした時に感じた僅かな違和感の正体に気付くことになるのは、その日から随分と経ってからのことだった。

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