sugar boy(2)


「おっせぇよリキッド。ったく、隊長様がわざわざ来てやったんだぜぇ?赤絨毯ひいて出迎えるぐらいのことしてみせろ」
 バン、と勢い良くドアを開け放ち我が物顔で食事時の他人様のお宅に上がり込む獅子舞に批難の目を向けるが、案の定彼には何の効果もないらしく
当然のように自分の席を奪われた挙句、未だ殆ど箸をつけていなかった朝食をガツガツとかきこまれる様子にガックリと肩を落とした。
「わぁー、おじさん久しぶり。相変わらず面白い格好だね」
 とっくに40を過ぎたオヤジが可愛らしい猫の尻尾を揺らすのを、あっさり面白い格好、で片付けるロタローもある意味大物だと思いながら、談笑するちみっこと傍若無人な侵入者に自分の居場所を奪われ、エプロンの裾を噛んで流し台に縋りついた。
 食事も満足にとれないまま追い払われる自分の立場に疑問を感じながら、ブツブツ恨み言を呟き洗い物をはじめれば背後に不穏な影を感じ、嫌な予感に冷や汗を流す。


 そう、未だ獅子舞が朝一番に訪ねてきた理由をきいてはいない。どうぜ、碌でもない用事なのだろうが間違いなく自分にとって良い類の話ではないだろう。
 ニヤニヤと悪どい笑みを浮かべて背後で仁王立ちになっている隊長に青褪めながら、震える手を叱咤し調理器具をどうにか洗い終え、水を止める為に水道の蛇口を捻った途端
待ち草臥れたとばかりに獅子舞が背中に覆い被さってきた。
「ちゃぁん、ちぃとばかし用があるんだけどさぁ」
 きた、と背後に圧し掛かるこなきじじい並の体重に全身を強張らせる。
 こんな猫撫で声でねだられる時には決まってとんでもない事態の後始末をさせられる時だというのは、特戦時代の経験で嫌というほど思い知らされている。
 振り解こうともがくが、後ろから羽交い絞めにされてしまうと流石というべきか、自分が幾ら渾身の力で抵抗をしてもびくともせず悪足掻きは悪戯に体力を減らすだけの結果に留まった。
「あの・・・隊長、俺今日忙し…」
「あ〜〜〜〜〜ン?聞こえねぇな、オラ、さっさと行くぜぇリッちゃん」
 有無を言わさず軽々と担ぎ上げられ、突然の浮遊感に慌てて獅子舞の肩にしがみ付く。
「ちょ、ちょっとおろして下さいよ隊長、俺忙しいんですってば!」
 バタバタと脚をばたつかせても全く効果はないらしく、平然と子供達に手を振ってコイツ、借りてくぜと笑顔を向ける獅子舞に眩暈すら感じる。
 基本的人権の尊重、という言葉はどうやらピンポイントで自分だけには適用されないらしい。
 あっさり自分のレンタルを承諾した小さな悪魔達に恨みがましい視線を向けながら、獅子舞に担がれたまま家を出て行く際、乱暴に開け放たれたドアが蝶番を吹き飛ばして外れる様を死んだ魚のような目でぼんやりと見つめた。


 もう、どうにでもなれと半ば投げ遣りな気持ちで溜息をつけば獅子舞の妙にしおらしい声がすぐ傍らからかけられる。
「リッちゃん、頼みがあるんだけどよぉ・・・」
 俺を助けてくれよ、と続けられた言葉に眉を顰めた。
 助ける?何故、自分が隊長を助けなければならないのだろうか。
 隊長が困る程の事態に、自分が太刀打ち出来るわけがないではないか。
 それ以前に助けて欲しいのはどちらかといえば現状の自分の方なのだが。



 次々と湧き上がる疑問に泣きそうに顔を顰めたまま獅子舞を窺えば、ニィッと何かを含んだ笑みを返された。
 嫌な、予感がする。…むしろ嫌な予感しかしない。


→続

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