Yes(1)


「で、彼女は肯定したんだよ。ルーペ越しに、彼の…いや人間の全てを?なのかな?」

 ファア、と熱弁を遮るべく発せられた欠伸に男は一瞬眉間に皺を寄せた。
 噤んだ言葉の続きを紡ぐことは止め、興醒めしたように後頭部をばりばりと掻き絹糸のような柔らかい金色の髪を乱した。

 その様子が丁度入隊したばかりのルーキーが時折見せる仕草に似ていることに瞳を細め、いいから遠慮なく続きを話せ、と促してやったのだが奴はすっかりへそを曲げてしまったらしい。
 もういい、と頬を膨らませそっぽを向く男にやれやれと腰をあげ軽く背伸びをしてみせる。
 思いのほか長時間拘束されてしまったようだな、部屋に備え付けてある銀色の時計を見上げ針が掠める数字に少なからず驚いた。

 つまらない話ではなかった。

 終始つまらなさそうな顔でロッドの話を聞いていた自分が言う台詞ではないが、この顔は生まれつきなので今更どうすることも出来やしない。
 面白そうな話ときけば顔を輝かせて飛びつき、話の盛り上がりに比例するように鬱陶しく、度を越えて顔を近づけてくるボーヤとは根本的に違う。
 そんなことは目の前で膨れ面してみせる男も、重々承知している筈である。
 ならば、これは。と、踵を返しかけた己を恨めしそうな顔で見つめる男に向き直り、口許に薄い笑みを浮かべた。

「で、貴様は何が言いたい」
 項にかかる陽光をそのまま光の筋に変えたような髪を指先で掬いあげ、息のかかる距離にするりと身を滑り込ませる。
 不本意ながら定位置になりかけている己の場所、右太腿の上に腰をかけ肩口に片頬を寄せるその位置に淀みない動作で落ち着きながら思い切り横柄な声色で続きを促してやった。
「だから、マーカーちゃんも」
 他人の生き様を摸倣した、よく出来た解答をなぞっただけの人生の終わりに何があるのかなど考えることすら下らない。
 きっと、お前もそう思っているくせに、と少しだけ力をこめて金糸の束を引き寄せる。

「私にはそんな下らない博愛精神はない」

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