present(4)
「ほう、あの絵はリキッド坊やの顔か・・・・」
「そうなの、リキッドくんなのー」
「なのー」
自分が踏み荒らしてしまったせいで輪郭の一部が歪に崩れてはいるが、こうして少し離れてみてみれば愛嬌のある顔で笑う馬鹿な後輩の顔が其処には確かに描かれている。
夕方に潮が満ちれば波にかき消されてしまうだろう泡沫の其れを指差し、己の顔を見上げ楽しげに笑いかけてくる小動物達に、口唇の端を吊り上げ・・・何故だか腹の底から込み上げてくる嘗て経験したことのない感情に任せ わらった。
「・・・うちの馬鹿弟子よりは絵心があるようだな」
繰り返し、繰り返し寄せては返す波音だけが優しい時間を包み込み
誰にも知られることなく、紡がれた言葉の数々を島に降り注ぐ晄の中に溶かし込んでいく。
その夜、すっかり日も暮れた時間帯。
不本意ながらロッドに背負われ戻ってきた獅子舞ハウスの戸締りを確認しようと、未だ痛みが残る脚を引き摺りながらそっとドアを開けたマーカーの瞳にうつったものは。
ドアの前に置かれたクボタ君の卵が数個と、地面に木の棒で描かれたらしい己の似顔絵。
これが誰の仕業なのか、など考えずとも分かる。
あの二匹以外に、今目の前の地面に描かれている、己が心から笑った顔など
見せた試しはないのだから。
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