present(3)



「・・・・・・・・・」
 さて、これはどうするべきか、と一人海岸に取り残されたマーカーは腕を組んだまま言葉を失う。
 焼いて止血をしただけの傷口はじくじくと煩わしい痛みを孕み、目の前にはすっかり元気をなくし小さな前足で目頭を押さえシクシクと泣き続けている小動物が二匹。
 こんな状態をリキッド坊やに見つかれば、胸倉を掴み上げられそうだな、と現状を鼻で笑い、苛立ちを露に小動物達に向かい口唇を開いた。
「・・・・・鬱陶しい」
 枯れることを知らない涙は前足を覆う柔らかな毛を濡らし、身体を震わせ泣き続ける彼らをより一層小さく見せている。リキッド坊やと違い、残念ながら自分はこういった動物の類の相手をすることは不得手である。
「怪我をしたのは私だ、貴様らではない。何故泣く必要がある」
 むしろ、結果的に彼等の遊戯の邪魔をした己が非難されてこそ当然。
 どうして彼等が自分を置いてこの場所を去らないのか、それすらも分からず苛立ちは募るばかり。
「だって、ぼくたちのせいでマーカーくんが痛いんだよ」
「ごめんね、ごめんね」
 涙声で返された返答に、言葉が詰まる。
「・・・・・馬鹿か、貴様ら。そんな下らんことで・・・」
 人を傷つけることで感じる痛みなど、己は知らない。
 考えたこともない。
 なのに、今目の前で涙を拭っているこの小さな動物達は、一体何なのだろう。
 言葉で言い表すことの出来ない不快感と、それに相反するような胸の奥に灯る不確かな感情に苛まれ大きな溜息をついた。
 この島は、人をかえる。
 嘗て自分が紡いだ言葉を忌々しげに胸の中で呟き、依然としてシクシク泣き続けるエグチとナカムラを両腕で抱きあげ太腿の上に座らせた。
「いつまで泣いている、男なら毅然とせんか」
 素肌に触れる温かな二匹分の体温を受け止め、とまらない涙を不器用に指先で拭った。温かい液体が伝う己の指先を、何か不思議なものでもみるように眺めると、おずおずとこちらを見上げる瞳と視線がぶつかる。
「・・・たいした怪我ではない、貴様らが気に病むようなものでもない。」
 穏やかな声で紡げば、本当?と己に問う瞳が真っ直ぐに向けられ、それを肯定するように頷き二匹の頭の上に軽く掌の温もりを伝えてやった。
 眼前に広がるは何処までも続く白い砂丘、じりじりと灼けるような日差しから優しく空一面に赤朽葉色をすく西日に変わるまでにはあと幾許かの時間が残っているのだろう。
 二匹の獣を抱き抱え、砂浜に貝で描かれた絵を眺めながら心地よい海風に薄く瞳を細めた。
 不思議と、悪い気分ではない。

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