present(2)


 あ、とステレオ放送のように身体の両脇から、否、両足元から声があげられ、視線を落として見れば其処には己の足元を呆けたような顔でみつめるカンガルーネズミと、アライグマというよく知った顔。
 この二匹はナマモノの中でも特にリキッド坊やによく懐いていた者達・・・だったような気がする。
 小動物達に挟まれ、不意に立ち尽くした己に小首を傾げながら追いついてきたロッドが、一瞬後に素っ頓狂な声をあげた。
「なぁに、どうしたのマーカーちゃん・・・・・ってお前、どうしたんだよその脚!」
 脚、と言われ自分自身の脚をまじまじと見てみると成る程、足の裏からどくどくと真っ赤な鮮血が滴り落ちている。
 砂に吸い込まれながらもじわじわと広がるそれに、漸く先程の激痛の正体を知った。 
 片足を上げて見れば、裸足の足の裏に深々と突き刺さった小さな巻き貝に溜息が零れる。
 細く鋭いそれは真上からかけられた体重に助けられ易々と肉を抉り己の体内に侵入を果たしてしまったようだ。
「マーカーくん、大丈夫?」
「どうしよう、血がいっぱい出てるよマーカーくん」
 弾かれたように、足元に駆け寄ってきたナマモノにうっかり尻餅をつきそうになり慌ててバランスをとりながら視線を巡らせれば、彼等はどうやら、貝を集めて砂浜のキャンバスに絵を描いていた最中だったらしい。
 桜貝や、瑠璃色に輝く二枚貝、己の肌を食い破った細長い巻き貝と同じようなものも白い砂上に、綺麗に並べられている。
、そこではじめて前方不注意だった自分が彼等の「作品」の中央に突っ込み、踏み躙ってしまったことを悟り大きく肩を落とした。



「つか、マジで此れは酷ぇな、マーカーそこらへんに座って待ってろよ。・・・あの、土方って奴がさっき持ってた塗り薬借りてくっからさ」
 己の足元に屈み込み、血塗れの片足をとり神妙な顔つきで検分をしていたロッドが顔を上げる。
 其れ程痛みが酷いわけではないが、如何せん見た目よりも傷が深いのだろうか血がとまらない。
 満足に救急箱すらないこの島で下手に悪化させ、破傷風でも引き起こせば目も当てられないだろう。
 早いうちに傷口の処置をする方が利口だ、と手近にあった岩に腰掛け傷口にはりついた砂を洗い流しじくじくといつまでも傷から滲み出る血液を指先の炎で焙り塞き止めた。
 ジュ、という音に一瞬顔を顰めると、こちらを心配そうな目でみつめる3対の瞳に気づく。
「何をぐずぐずしている、もとはといえば貴様のせいなのだからな・・・早く行ってこい、ロッド」
 その視線に晒されることが居心地悪く、思い切りふてぶてしい態度をとりながら項垂れるイタリアンに命令してやると、奴はポリポリと後頭部を掻きながら決まり悪そうな顔でこちらに近付き。
「すぐに戻ってくるから、待っててねマーカーちゃん」
 汗ではりついた己の前髪を掬い上げそっと額に口唇を押し当てられた感触を認める。
 一瞬の空白の後で漸く何をされたかを悟った己が、文句の言葉を紡ぐ前にロッドは踵を返し走り出していった。
「ばっ・・・馬鹿者!」
 後に残るは、寄せて返す波音とポカンとした顔でこちらを見上げる二匹の獣、そして蒸し暑さのせいだけではなく赤く染まった頬を隠すように掌で覆う己の姿のみ。

 

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