present(1)


 頭上では抜けるような青空に目がくらむような眩しい太陽がさんさんと輝き、心地よい潮風が悪戯に髪を撫でては早足で身体の両脇を通り過ぎていく。
 何処までも広がる白い砂に打ち寄せる波が優しいリズムを繰り返し、つい一時間程前にこの場所を包んでいた喧騒が嘘のように、今は穏やかな時を再び刻んでいた。


 達筆とは到底言い難い字で書かれていた、熾烈を極めたビーチバレーボール大会の看板は既に撤去され砂浜は何時もと変わらず静かな佇まいを見せている。
 足元の砂を波が繰り返しさらう波打ち際を、マーカーは腰に巻き付かせたパレオの裾をゆるりと翻しながら足早に駈けていた。
 風とダンスを踊るようにはためく純白の布は、己を追いかけ一目散にこちらに向かってくる男にとって、どうやら勇敢なる闘牛士が掲げる真紅の布と同じ役目を果たしているらしい。
 鼻息荒く、「マーカーちゃ〜ん」と背筋が凍るような声で己の名を呼ぶ馬鹿牛を振り返り、チッと舌打ちをしてから背後のロッドに口を開いた。

「いい加減にしろロッド、真面目に食材を探さんか!」
「そんなこと言ったってぇ、目の前に美味しそうなものちらつかされちゃ中身が気になって集中出来ないっしょ〜」
「・・・・!、貴様どうしても私を怒らせたいようだな!」

 既にこめかみはひくつき、眉間にはマリアナ海溝よりも深い皺が刻まれている。それもこれも、先程から腰に巻かれた薄布を捲ろうと執拗に纏わりついてくるこの馬鹿のせいに他ならないのだが。
 馬鹿な後輩のせいで卵一年分の報酬の裾分けは脆くも消え去り、これまた馬鹿な同僚のせいで上司に言い付けられた夕餉の材料探しも一向に捗らない。
 くそ、どうして自分だけがこのような目にあうのだと愚痴を零そうとも、リキッド坊やの無様な敗北に腹をたて昼間から大酒を喰らって浜で熟睡してしまった上司の耳に届く筈もなく。
 きっと、日が落ち涼風を感じて目を覚ます頃までに食事の準備を済ませておかなければ己達も何らかのとばっちりを受けるに違いない。
 ただでさえ少ない給料をこれ以上下らない事でカットされてたまるか、と拳を握る己の決意など何処吹く風で、いつも以上の不真面目さをいかんなく発揮してくれる馬鹿伊太利亜人にそろそろ我慢も限界に達してしまいそうだ。
 いつまでも下らぬ追いかけっこに無駄に時間を費やすわけにはいかない。ここは一つ、この馬鹿を奥義で葬り一人で食材探しに集中した方が能率はいいだろうと走るスピードは緩めず、後ろをチラリチラリと振り返りながら蛇炎流を繰り出せる距離までロッドが近付くタイミングをはかる・・・・と、不意に背筋を突き抜けるような激痛を
感じ暗褐色の瞳を見開いた。




「あ」
「あ」
「・・・・・・・」



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