▲罰ゲーム(1)


 罰ゲーム、とその言葉だけを聴けば子供同士の遊びの中に組み込まれた、それそのものも一種の他愛の無い遊戯に聞こえるものが、今のリキッドにとっては恐ろしい程に精神を苛まれる響きに感じられた。


 そもそも、獅子舞が提案した罰ゲームとやらにマトモな物があったためしが無い。
 素っ裸で家事をしろ、ぐらいであればまだまだ序の口。酷い時には彼が吐き出した精液を口に溜めて自動販売機まで煙草を買いに行って帰って来いだの、一日尻に異物を挿入したまま生活をしろだの、兎に角普通の頭では考えがつかないような非道な罰ゲームを嬉々として己に
与えるのだ。
 同じ部隊に所属していてもロッドやGが同じことをされているのを見た例が無いことを考えると、どうやら彼が執拗に執着するのは己だけであるらしくそれがまた苛立ちを募らせる原因にもなっている。


「・・・・新人だからって、好き放題されて堪っかよ・・・」
 思わず不貞腐れた表情のまま、呟いてしまった心の声に目の前の獅子舞が眉を顰める。
「あぁん?何か言ったか、リキッド」
 これ以上機嫌を悪くされて、身体が耐え切れない程の罰ゲームを与えられては堪らないと慌てて顔の前で両手を振り、否定を示し無理矢理愛想笑いを浮かべた。
「ななななんでもないッスよ。隊長」
 相変らず散らかりっぱなしの彼の私室、豪華な調度品は玩具のようにそこらじゅうに乱雑に積み上げられ、値段を告げられれば魂が抜けそうな程のゼロが連なる高級絨毯も押し付けられた煙草の焦げ痕だらけになっている。
 幾ら掃除をしても、何故か片付かない・・・と隊長の身の回りの世話を担当している同僚の中国人ですら頭を抱える程の、世界の七不思議をもう一つ増やしても良いのではないかと思われる隊長の部屋で、二人きり時間を過ごすことも珍しくはなくなってしまった。
 間に置かれたチェス盤もきっと、鑑定をしてみれば己のような一介のヤンキーが手を触れることも躊躇われるような素晴らしい逸品なのだろう。


 幾度見返しても完全に白旗を揚げざるをえない状況の盤上の惨状に、バリバリと後頭部をかいて頬を膨らませる。
「ひでぇっすよ、隊長。俺がチェスなんかやったことある訳ないじゃないッスか」
 騙された、完全にこの悪魔に騙された。
 勿論、騙される己にも1%ぐらいの責任はあるのかもしれないがどう考えても彼の方が一方的に悪いではないか。
「ンなことはしらねえな、リッちゃんが先に駒を動かしたんだぜ?俺は付きあってやっただけ」
「そんなッ・・・、俺はただ物珍しくてちょっと触ってみただけで・・・・」
 白々しい笑顔で不貞腐れたままの己の顎を掴みあげる獅子舞の纏うオーラは既に後に待ち構えている「罰ゲーム」という名の悪戯に嬉しさを隠せないでいるようだ。逃げようにも八方塞のこの空間では、たとえ隊長の私室から逃げ出せたとしても狭い飛行艇、何れは捕まり
より酷い罰を与えられることは試さずとも分かる。
 チッ、と舌打ちをして目の前で満面の笑顔を浮かべる獅子舞を上目遣いでおそるおそる見上げた。
「・・・・で、俺は何をすりゃいいんスか・・・」
 その言葉にニィィィ、と悪魔の笑みを深める獅子舞に背筋が凍る。チキンが自分からオーブンに飛び込むようなことを言わなければよかった、と今更後悔しても後の祭りである。
「いやぁな、リッちゃん。今日はオメーにスゲーいいプレゼントがあるんだよ」
 いい訳がない。心の中で即ツッコミを返しながらも、彼が発した「プレゼント」という言葉に些か興味が湧いたことは否定できない。
 身体を痛めつけられるよりは、つまらなく反応に困るものでも、兎に角貰ってさっさと逃げ出した方が何倍もましだ。
「なんすか、いいもんって・・・・・」
 獅子舞の次の反応を待ちながら、おずおずと尋ねた問いに悪魔は最高の笑顔をこちらに見せた。
 そして、じゃーん、と部屋の片隅に置かれていた何かの家具らしきものにかけられていた厚い布を一息に捲る。

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