precious(7)


 腕に感じる直接的な痛みとは別の痛みが、思考をドロドロと濁らせている。
 何だ?と思ったときには既に視界がグラリと傾き、昔部隊に所属されたばかりの頃、至近距離からの爆風をまともに背中で受けてしまった時のような、吐き気を伴った脱力感に全身を包み込まれ息苦しさを覚えた。
 得体の知れない倦怠感を振り払うようにぶるぶると頭を振ってみても、後頭部を殴られるような断続的な鈍い痛みが酷くなる一方でどうにもならない。
 これも自分の知らない東洋の怪しげな技か?と予想もしなかった事態に面食らい、それでもこのまま倒れるわけにはいかないと崩れそうな膝に必死に力をこめた。

「どう死ぬかなんてのはよ、俺達が勝手に決められることじゃねぇだろ」
 先程から何度もくらった灼熱の熱気にあてられたのか、ひどく喉の奥がカラカラする。
「死に方ぐらい選ばせてやれよ・・・お前が言うように死んだ方がマシって目にあうとしても・・」
 ブーツの裏に感じていた硬い地面の感触も、奇妙な浮遊感に紛れてしっかりと認識することが出来ない。
「まかり間違って生き残っちまうって可能性だって、あるんだしよぉ」
 持ち主の言うことをきかない身体にヤバイ、と思いながらも、どんどんと重くなる瞼に内心舌打ちをしながら必死でマーカーの姿を捉える。
 こちらを見据える、彼の顔には何とも言い難い表情が浮かんでいた。
「ひょっとしたら、俺らに復讐しに来るかもしれねぇぜ。そしたら俺達の大好きな戦争に・・へへ、また、ありつけんだろ・・・・」
 呂律が回らないことに苛立ちながらも、吐き出すように最後まで言い切ったところで頬に硬い床の感触を感じた。

 痛みは既に無い。聴覚もどこかいかれてしまったのだろうか、聞こえる音は全てどこか遠くで響いているようなくぐもった音にかわっていく。

 薄らと開いた視界に最後に見えたものは、泣きじゃくりながら自分の傍らにしゃがみこむ幼い少年の姿だけだった。

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