Strawberry Milk Candy(1)
ハーレム×リキッド
ハーレム×マーカー
ここのところ、連日連夜の睡眠不足に流石に身体も限界を感じている…若い時にはちょっとやそっとのことでは人間疲労を感じないものである、という一般論が嘘八百に聞こえる程、己の身体は限界すれすれのところで生きているということなのだろうか。
リキッドは、ハァ…と大きな溜息をつき、青黒い隈で縁取られた瞳をゴシゴシと手の甲で擦った。
身に纏った可愛らしいディ○ニーキャラクターだらけのパジャマは3ヶ月前に購入して以来、一度も洗濯をしていないのに汚れどころか皺すらろくについていない。
それもその筈、毎晩愛するキャラクター達に包まれて穏やかな眠りを堪能する前に横暴な上司に身ぐるみ剥がされベッドの下にうち捨てられているのだから。
シャワーを使った後でソファに寝転ぶ、24時間のうち唯一安息を感じられるこの十数分間しか着ていないパジャマが汚れるはずがない…と今夜もまた当然のように部屋に不法侵入してくるであろうナマハゲを想像し体育座りのままガクリと肩を落とした。
就寝前の僅かな時間、シャワーを使い終えた同僚達も思い思いに時間を過ごし、背後ではGが恐ろしくアルコール度数の高い酒を黙々と嗜み、その隣ではロッドがマーカーを腕の中に捕まえようとしては派手に燃やされ、最早恒例となった命がけの痴話喧嘩が繰り広げられている。
賑やかなその様子を横目で眺め、また一つ溜息を吐き出すといつのまにか傍らに寄ったのだろうか。
先程までロッドと一緒にいた筈のマーカーが無表情のままジッと己の顔を覗きこんでいることに気付き思わず仰け反って悲鳴をあげた。
「うわぁ、……びっくりしたな全く……」
未だドキドキと早鐘のように鳴る心臓に手をあて、相変らず自分を凝視したままのマーカーに抗議の言葉を紡ぐ。
気配を消すことが誰よりも上手い、生粋の暗殺者である彼には取るに足らない行為なのだろうが未だ隊に所属されて半年にも満たない自分にとっては心臓に悪すぎる。
それに普段、隊長や同僚かつ先輩でもあるロッドのように、派手に自分苛めを楽しむ男ではないが彼には今まで何度も酷い目にあわされた経験がある…しかも、悉く陰険な方法で。
隊長のように言葉よりも先に殴りかかってくるタイプよりも、自分にとってはある意味マーカーの方が苦手なのだ。
見かけよりもずっと繊細な心を持つ己が幾度心臓が止まるような手酷い仕打ちをうけたことか…
思い出したくもない、と犬のようにプルプル首を振り、一体何の用かと身構え同僚に向き直った。
「な、何の用だよ」
相手から目を逸らして話すような奴は拳を交えるまでもなく負け犬だ。全身に走る緊張を隠し、喧嘩のセオリーに従い涼しげな切れ長の瞳から視線を外さず、出来る限り凄んでみせたがあまり彼に効果はないらしい。
相変らず無言のまま、じっと黒曜石の瞳で見詰められ続けるのは居心地が悪い…全く狙いの読めないその深い瞳に内心怯んでいる事が悟られてしまうのも癪に障る。
「マーカー?」
押し黙ったまま、ずい、と顔を近づけてくる彼に眉間に皺を寄せる。
そういえば、先程まで船を破壊するような勢いで命ギリギリのスキンシップを挑んでいたロッドの姿が見えないのは何故なのだろうか…と視線を動かしてすぐに、マーカーの肩越しにぶすぶすと煙をあげて蹲るかろうじて息のあるプレ焼死体を確認し息を呑んだ。
どうりで静かな筈だ。
死人に口無しとは言うが、あのうるさいイタリア人を黙らせるには殺める一歩手前まで持っていかねばならないのか…とマーカーの容赦ない仕打ちに少しだけロッドに同情を覚える。
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