PRIZE(5)


「マーカーちゃんの瞳で、ずっと俺のことつかまえててね」
 再び繰り返される言葉と、軽く触れては離れるキスに猫の如く全身の力をだらりと抜き、焔色の瞳を伏せた。
 本当はこの馬鹿の頭でも理解出来ている癖に、どうしてこう悪戯に心惑わせるような嘘ばかり吐くのだろうか。
 自分達が命と引き換えに守るべきものなどこの世にひとつだけしかありはしないのに。
 いつ訪れるかは分からない、その時、が来れば勿論己も、そして目の前で腑抜けた顔を晒すこの男も躊躇わずに命を投げ出す覚悟は出来ているだろうに。
 それなのに、何故。
「お前の為に、生きるから」
 覆い被さる身体の重みは既によく知るもので、背に両腕を廻し自ら引き寄せながら苦い想いを唾液と共に呑み込み、口唇をきつく噛み締めた。
 嘘吐き。言いかけた言葉は音には為らず、戦慄いた口唇はそのままぴたりと寄せられたロッドの首筋に押し当てられ紅い刻印を灼きつける。
 嘘吐き。
 何も見ないように。
 己が知るあの笑みを湛えたまま震える身体を優しくかき抱く男の顔も、これから先自分達を待つ血と闇に塗られた未来も、何もかも今だけは見たくない、ときつく閉じた瞳を開くことも出来ず


 聖人の無償の愛情を錯覚させるが如くぴたりと合わせられた肌から与えられる温もりと、ぴりぴりと張り詰めた身体に降り落ちる泣きたい程に優しい吐息に
 今は身を任せること以外無力な己に一体何が出来ようか。

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