PRIZE(3)


 面倒事は御免だ、と我関せずを貫く己に首を傾げ彼は熊が側面に大きく描かれているコーヒーの満たされたカップに口唇を寄せた。
 どうやら事の成り行きを見守ることにしたらしい。
 状況判断には優れた能力を持つ男だ、己が口を開かずとも勝手に理解してくれるだろう。
「いい所に来た〜!G、Gも自爆技持ってるっしょ?ほら隊長、俺じゃなくGにやって貰ってくださいって」
 突如スケープゴートにされたGは面食らい、身を乗り出して自分を指差すロッドを目を丸くして見つめている。
 その行為が齎す結果だけを考えれば「死ね」と言われるのと何ら変わりない物言いに、固まるGはお構いなしにエキサイトし続ける二人は、もう自分ごときが止められるレベルではないようだ。
「だって、俺の技はマーカーちゃんの為にとっておくんだから浪費できないっしょ〜、な?Gお願い、俺の為にちょっくら自爆してみて」
 両手をちょこんと顔の前で合わせ、奴に可能な最大限の「可愛らしさ」を総動員させたオネガイポーズも流石に命にかかわることとなればGも軽々と頷けないらしく、固まったままパチパチと瞬きを繰り返すばかりだ。
 きっと頭の中は溢れかえらんばかりの疑問符でいっぱいなのだろう。流石に、哀れに思え調子に乗るイタリア人の脚を蹴飛ばし、払いのけてやった。
「いってぇぇぇぇえ、何すんのマーカーちゃん!やっぱお前カルシウム足りてねぇよ」
「五月蝿い、貴様の下らない冗談に他者を巻き込むな。死にたいならば勝手に死ね、だが私は貴様の技に助けられるなど願い下げだ」
 地を這うような低い声にビクリと身を竦ませたロッドを睨み付け、一息で言い切った後、席を立ち隊長に軽く頭を下げくるりと踵を返した。



 背後に感じる3人の視線を振り払うように部屋を後にしてパタリ、と鉄でできた重く冷たい扉を閉ざす。
 途端に静寂に包まれる空間に溜息を吐き出し、自室へと続く通路を歩いていく。硬いブーツの底が床と交わす口付けの音はカツカツとやけに大きく響き、間隔の狭いそれに自分の苛立ちを感じ取り自嘲を零した。
 世迷言としかとれないその言葉に如何ほどの意味があるものか。
 守るべき価値を持たない者の為に死ぬなど、…馬鹿馬鹿しい。
 沸々と湧きあがる怒りにも似た思いに自然と足取りは速まり、自室の扉を開き部屋に一歩踏み入り後ろ手に閉めようと背後に伸ばした腕を。
「…何のつもりだ」
 手首を掴んだ不快な温かい体温に、後ろを振り返らぬまま冷たい声で言い放った。
「だってマーカーちゃん怒って行っちまうんだもん」
 一体誰が怒らせたと思っているのだ、馬鹿者め。
「離せ、用が無いのならば失せろ。」
「用…用ねぇ…えっと、あった。これこれ」
 何かを考えるように間延びした声が暫し続いた後、思い出したようにゴソゴソとジャケットを探る音。
こうして後ろを向いたままでもわかるそれにいい加減怒鳴りつけてやろうかと口唇を開きかけた己の目の前に、何かを乗せた掌がスウッと突き出された。
 白い肌の上に並んだ、溶けて少しばかり形が不恰好に歪んだミルク味のキャンディが2粒。
「カルシウムの配達、ね。マーカーちゃん。」
 振り向けばにっこりと微笑み、子供のように得意顔を見せる馬鹿に怒る気力も消え失せやっとの思いで紡いだ言葉は「四六時中甘いものばかり口に入れて虫歯になっても知らんぞ」という手のかかる子供を持った母親のようなものだった。


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