Prize ヲルヘン(2)


「……」
「どうせあなた達も同じシャンプーの匂いさせてるんでしょ」
 うふふ、と思い切り下世話な事を邪推するような表情で、シンシアが血色の悪さは否めないが生前と変わらず美しい顔を私にぐっと寄せ内緒話のように囁きかけてくる。
「その…君と、アイリーンは…ええと」
「馬鹿ね何もあるわけないでしょう、私達の愛は清らかで気高いものなのよ、そっちと一緒にしないで頂戴。あなた達ときたらケダモノのように毎晩夜通しイヤらしい声張りあげてイイだのダメだのもっとだの奥まで欲しいだの壊れちゃうだの壊してだの…」
「わ、私はまだそんな事ウォルターに言った覚えは…?!」
 ガタンと椅子から半分腰を浮かせて、べらべら喋り続けるシンシアの口を慌てて手で塞ぐと彼女はニィィィーっと嫌な笑顔を深め、あらそうだったかしらと狼狽する私を無遠慮にジロジロ眺め回した。
 しまった、彼女の方が一枚も二枚も上手だ…。
「まぁ声には気をつけることね。私の子猫ちゃんは一度寝ちゃうと朝まで起きない子だからバレてはいないと思うけど、普通に筒抜けだから」
 どくどくと鳴る心臓を落ち着かせながら真っ赤な顔で嫌な汗を拭う私を散々からかった後で、漸く満足してくれたのかシンシアは再びアイリーンの傍らに戻り彼女の髪に「いい匂いだわ」と頬擦りを繰り返している。
「同じ匂いじゃない」
「ふふ、そういえばそうね」
 2人で同じシャンプーを使うにしてもシンシアゴーストの髪の長さならば2日で1本使いきってしまうだろうに…。経済的に大変そうだ、頑張れアイリーン。
 そうして幸せそうに微笑みあう彼女達にそそくさと礼を述べ、すっかり疲れ果てた顔で私は隣人の部屋を後にした。
 




「おかえりヘンリー、ミス・ガルビンは元気だったか?」
 私が302号室に戻ると、丁度風呂から出たばかりらしく全身に湯気を纏ったウォルターが両手を広げて出迎えてくれた。
「…また全裸で」
「大丈夫だ、ヘンリー。お前にならどんな姿を見られても私は気にしないぞ」
「私が気にするんだよ、いい加減服を着て出て来てくれよ…ほら、身体もちゃんと拭いて」
 そこでふと、先程の彼女達が話していた「幸せの実感、同じ香りの髪」というキーワードが頭を過ぎり、全裸でただいまのキスを強請るウォルターの金髪をひとふさ指に絡めそっと鼻を近付けてみた。
「………?」
 私と同じ香りはしない。
 いやそれもおかしな話だ、今バスルームに置いてあるシャンプーはスーパーマーケットで私が買ってきたもの以外に無い筈なのだが…しかし、この香りどこかで嗅いだ覚えが…。
 ある事に思い当り、視線をすうっとキッチンの流し台に滑らせ、本来ならそこにあるべきものが見当たらないことに私は深く溜息を吐いた。
「ウォルター、全身を食器用洗剤で洗うのはやめてくれ…」


 どこまでも無頓着な同居人に結局絆され、強請られる儘にただいまのキスをしながら 私は隣室の彼女たちに、同棲なんてそうそうロマンチックなものではないのだぞと心の中でこっそりぼやくのだった。

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