▲Flower ヲルヘン(3)


「………ッ」
 薄く開かれた震える瞼の下、切なげに潤む翡翠の瞳を正面から見下ろしながら、ゆっくりと腕の中に捕らえた生贄の体内を侵食していく。
 命の灯が尽きかけたウサギに、獣が残酷にじわじわと断魂の牙を立てるようにヘンリーのナカを彼の反応を観察しながら味わえるのは非常に興味深い事だ。
 入口は拒むように窄まっていても、少しばかり強く押し開いてやれば簡単に熱いペニスを受け入れそれを待ち望んでいたように咥え込む。
 そんな彼の淫らな下肢を煽るように探りながら腰骨を両手で痣が出来る程強く掴み、最後は幾分か乱暴に己を埋め込んでいった。
 「っ…ッ!!痛、やめろ、くそ、抜け……ッウォルター、ウォルターッ……」
 こうなってしまうとシーツの上繋ぎとめられ髪を振り乱し激痛に耐える生贄は、まともに呼吸をすることも叶わず陸に打ち上げられた魚の如く身を震わせる事しか出来なかった。
 「あっ……ん」
 惨めな姿だな、ヘンリー・タウンゼント。泡沫の悪夢はもうすぐ終わってしまうがいずれ永久にこの痛みを味わい続ける事になる、今のうちに良く覚えておくといい。私の、愛し方を。



 朦朧とする意識の中でちらつく紅の残像に、彼の出血を見て睫毛を揺らす。
 普段嫌という程嗅いでいる生命と死そのものをあらわすような鉄の臭いに何故だか吐き気がこみあげてきた。ぼた、ぼたとヘンリーの頬に零れ落ちる透明な雫は私が流したものなのだろうか?
 「はは…、ヘンリー、お前は私のものだ。私のものなんだ…」
 ずっと欲しかったのだ、穏やかな声もその眼差しも部屋に入った蜘蛛を殺さず窓から逃がしてやる生温い優しさも見ず知らずの人間が事故にあったというテレビが伝えるニュースに心から無事を祈る愚かしさも全て余さず。
 「……ウォルター…?何で……あ、あ、ッ…あああっ」
 矢張り駄目だ、花が枯れてしまう可哀想に早くなんとかしてやらなくては。彼を犯しながらまた自分も得体のしれないものに身体を、脳を侵食されていく嫌悪感がそう急かす。

 …生きる花には毒を持つものがあるというが私は彼の毒に中てられてしまったというのだろうか。内臓を圧迫され込み上げる嘔吐感に脂汗を流しながら私は獣のように腰を打ち付け続けた。
 早くなんとかしてやらなくては、早く死体に変えてやらなくては…私の方が毒で参ってしまいそうだ。
 手遅れにならなければいい、遅効性のこの毒は、出会った日からあきらかに我が身をゆっくりと蝕んでいるのだから。




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