holiday ヲルヘン(4)


「…ウォルター」
「こ、こら叩くなヘンリー。この速度で転んだら擦り剥くどころの怪我じゃすまないかもしれないぞ」
 硬く上擦った声で彼の名を呼び、諸悪の根源の背をドンと勢いよく叩いてやればウォルターは自転車が横転しないよう必死でハンドルを右へ、左へと切り返して情けない声をあげた。
「自転車ごと瞬間移動は出来…」
「出来るものならばとっくにやってる!」
「このダメ術者」
「うるさいお前も知恵ならば解決法の一つや二つ即座に…」
「前見ろ前!!」

 喧々囂々と言い争いをしながらも必死で打開策を探す己達を嘲笑うように自転車は坂を滑り降り、足を踏ん張って止めようにも靴底を擦り減らすばかりで全く緩まる気配のないそれに本気で頭を抱えたくなった。
 必死なウォルターを余所に、ぐんぐんとスピードを上げていく自転車にまたしても腹の底から妙な笑いが込み上げてきて思わず吹き出してしまった。
 そして思い切り声をあげて笑う私と、呆気にとられたように背後の私を振り返るウォルターの顔。


 高く晴れ渡った七月の終わりの日曜、午後の空。
 猛スピードで流れる景色に、ブレーキが壊れた自転車。


 こうなれば後はどうにでもなれだ、と子供の頃連れて行ってもらったサーカスの曲乗りのように両足を思い切り横に開いてウォルターに力いっぱいしがみ付き、笑った。
「なあウォルター!」
 きっとこんなスピードの中では聞こえないだろうけれども。
「すまない、よく聞こえないぞヘンリー!」 
 なぁ、私はな
「私はお前の事      かもしれない!」
 聞こえないだろうから、言うけれども。
「何だ?!」
 何をだ?何がだ?と余裕のない声で聞き返すウォルターに、私は思い切り腹の底から笑いながら哀しいぐらいに澄んだ青い空に瞳を細めた。



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暑中お見舞い申し上げます

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