teddy bear ヲルヘン(2)


「酔ってる…のかい?」
 訝しげな顔で訊ねる私の声が届いているのか、いないのか。
 ウォルターは相変わらず据わった目をしたままぼんやりとこちらを見つめている。


 ……ときに、なにゆえ彼は私のTシャツを無理矢理に着ているのだろうか。
 身長は私よりも彼の方が頭一つ分高いのだけれども、どちらかといえば痩せ型のウォルターは幅だけの話なら充分私のサイズを着る事が出来る。
 勿論丈は少しだけ足りないのが同じ男として悔しいところなのだが、まぁそれはこの際置いておくとしてわざわざ彼が快適とは言い難い私のシャツを着る理由がみつからない。
 大体そのTシャツは学生時代、頭数合わせの為名前だけを在籍させていたフットボールサークルで貰った真っ赤な代物で、とてもではないが派手すぎて普段着として使えるものではなかった為クローゼットの最奥に仕舞い込みっぱなしだった筈だ。
 一体どこから引っ張り出してきたのか…私ですらそれの存在を忘れていたというのに。 
 そしてダメ押しのように、へその上あたりに裾がぴたりとはりついたそのTシャツを着た彼の下半身側は、どういうわけか素っ裸で下着すらつけていないという非常にカオスな状況なのである。


 状況を把握しかねて困惑し、うーん、と唸る事しか出来ない私の目の前でとろんとした眼差しのままウォルターが手招きをする。
 こっちへこい、というようなそれに大人しく従い、彼に近寄るとますます強くなる酒の匂いに私の脳も蕩かされ痺れるような錯覚を覚えた。そのせいで、その後の彼の行動に対する一瞬の反応が遅れてしまった事を後悔する。
「がっ…?!」
 ガバッと身を乗り出したウォルターに思い切りよく首から上を抱え込まれてしまい完璧に極まったヘッドロックに今更両手を振り回してもそれを振り解く事は不可能だった。
「ヘンリイイイィィィ〜〜ッ〜」
「なっ…!苦しい、ちょ やめろウォルター」
 うぉぉんと獣のような啼き声を上げ私の気道をぐいぐい塞いでくるウォルターに死ぬ気で抵抗しながら、なんとか逃げ道を探そうと奮戦するが、如何せんこの体格差だけはどうしようもない。
 酔っ払いに力の加減など期待出来る筈も無く、このままだとそう間をおかずに私は締めおとされるか運が悪ければ絞殺されるかの2つの選択を迫られる事になるだろう、勿論後者は全力で勘弁願いたいが。
「ウォルタッ、あ やめ、私が悪かったから…」
 ギブアップの意思表示は彼の耳には全く届いていないらしく、更に籠められ続ける力にいい加減気が遠くなってきた。
 このままでは冗談抜きに死ぬ、死んでしまう。前後不覚の半裸の恋人に絞め殺されて終わる人生なんて、私は前世でどれだけの重い罪を犯してきたというのだろうか。
 生贄になるよりも残酷な運命を呪いながら酸素不足に意識を手放しかけた時、突然首が解放され私の身体は糸が切れた傀儡のようにそのままずるずると床に崩れ落ちた。
 恐らく紅い痕が貼り付いてしまっているであろう首を両手で庇いながらゲホゲホ咳込む私の目の前でウォルターが陽炎のように立ち上がってこちらを見下ろしていた。
 どうにかヘッドロックの締め過ぎで殺害される事故は免れたようだが次は一体何を仕出かすのか予測もつかない。
 身の安全を確保する為、とりあえず立ち上がろうとした私の腹の上に今度はどす、と勢いをつけて彼が腰を落としてきた。
「ぐふっ…?!」
 仰向けに床に倒れたままの私の腹の上にどっかりと座り込みマウントポジションを確保する半裸の酔っ払いにとうとう抵抗する体力も尽きて、四肢を投げ出したまま荒い息を繰り返す。

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