▲戒 ヲルヘン(4)


「さて。そろそろ、私も楽しませて貰おうとするかな」
 獣に犯されるヘンリーの正面に立った私の、その傍らにするりと寄り添ったもう一人の暗褐色の影に俯いていたヘンリーがゆっくりと頭を擡げる。
 突如現れた気配を訝しげに思ったのだろうか、しかしそれが”誰”であるかを認識できた瞬間、ヘンリーの虚ろだった目が驚愕に大きく見開かれるのを私はとても満ち足りた気分で眺めていた。


「なっ…。嘘だ、まさか、え……ああ、あっ…」
 嘘だ、とは酷い言い草だ、これもそう遠くない未来に出逢うことになるお前自身だというのに。
 そう笑いながら私の傍らで従順に微笑む21番目の刻印が刻まれたヴィクティムの髪を撫でてやると、ヘンリーは狂ったように頭を振り、重なる凌辱にすっかり掠れてしまった声で私を非難する言葉を喚き散らした。
「何だ、まだ随分と元気じゃないかヘンリー」
 獣に己の身体を蹂躙されるよりも、私に隷属した自分自身の姿を見せられる方が精神的負荷を与えられるとはこれも予想していなかった反応だ、実に面白い。
 そんな自身の姿に翡翠の瞳を細めたヴィクティムはまるでヘンリーに見せつけるかのように娼妓の仕草で私の首に両腕を絡めると、永遠に渇く事のない血の滴る口唇を歪ませて綺麗に笑ってみせた。

 思っていた以上にソレ、に強い拒否反応を示したヘンリーを見遣り、私は足元に跪くヴィクティムの髪を愛玩動物のように弄る。暫く好きにさせてやることにしようか。
 私の世界が生んだものとはいえ他のゴースト達や獣同様、私が全てを支配しているわけではない。
 こちらを見上げ、欲に塗れた視線を絡ませてくるヘンリーと同じ顔をしたそれの頬に手を添えてやると、彼は嬉しげに瞳を細め私の太股に頬擦りを寄越してくる。
 見えているかヘンリー・タウンゼント?、こちら側のお前もなかなかに可愛らしいものだろう?。
 そのままヴィクティムが私のコートの留め具をひとつひとつ丁寧に外し肌蹴た胸元にねっとりと舌を這わせる様子を、ヘンリーは信じられないといった面持ちで見詰めていた。
 奉仕する悦びに蕩けた自分自身の顔など見るのはもちろん初めての事だろう、しかも奉仕している相手がこの私なのだから彼の心中を想像するだけで笑いが込み上げてくる。

「さあ、互いに楽しもう…ヘンリー」
 そう言いながら、首筋を伝い、頬まで顔を寄せてきたヴィクティムを私はやんわりと手で制し、口唇に触れることだけは禁じた。
 私のものを咥えたいのならば自由にすればいいし、貫かれたいなら私の腰に跨って好き勝手に動けばいい、しかし此処はダメだと言い聞かせるとヴィクティムは意思を持たない筈のゴーストらしからぬ
色々な感情を綯交ぜにしたような表情を浮かべ、こちらを見上げた。まさかコレ、は本物のヘンリーに対して嫉妬でも感じているのだろうか?
 残念ながら私が欲しいものは目の前で絶望に打ちひしがれる憐れなこの男だけなのだ、ヴィクティムの腰を抱きながらそう囁いてやれば2人のヘンリーが同時に身を震わせるのが分かり その反応は遊びに興じる私の心を酷く満足させてくれた。




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