▲戒 ヲルヘン(3)


 人を壊すのなんて簡単に出来るのだ。幼い頃、耳障りな水滴の垂れる音が止まない真夜中の牢獄のなかで、膝を抱えた私はよくそんなことを考えていた。
 まず物理的に破壊するのはとても容易い。自分達のような未発達の身体をもつ者ならば大人が本気で拳をふるうだけでそれは簡単に壊せる。
 壊れたところからロボットのオイルの如く、紅い液体を垂れ流すもう動かなくなった残骸はゴミ箱に放り投げるように秘密の穴から捨てられる事も人伝に知っていた。
 施設で出来た友達も、壊れて捨てられてしまった子が何人かいたような気がするが今となっては顔も名前も人数も…よく覚えてはいない。
 物理的に破壊されたヒトはどこが壊れているか、それが直せるものなのか、それとももうスクラップになるのを待つだけの抜け殻なのかが子供の目からみても分かりやすかったが、
ナカミを破壊されたヒトの場合は一見しただけでは分かり辛く、随分自分もそれに苦しめられた。
 そもそもあの施設に壊れていないヒトが存在していただろうか。
 子供達も、彼らを管理する大人もみんなどこか歪で幼い頃の自分には全て足や手や目玉が欠損した人形が、小さな人形をせっせと壊しているようにしかみえなかった。
 そう他人を冷静に分析することによって未だ自分は正常だと安心する。
 鼻を摘まみたくなるような異臭がする、一体何が煮込まれているのか判別がつかないほどドロドロに溶けた肉と玉ねぎとジャガイモのスープを自分が生きる為に啜り込み自分は正常だと安心する。。
 一週間前に振舞われたビーフシチューと味が違う、と突然何かに気付いたように立ち上がり絶望の声をあげる隣の子を冷めた目で見つめながら、死肉を煮込んだ料理にはかわりないじゃないかと鼻で嗤った。


「壊してはいけないぞ、それは大切なものなのだから」
 勿論、中身も容れ物もだ。そう釘をさす私の声が聞こえているのかいないのか、ガムヘッドは歓喜の声をあげながらヘンリーの下肢に突き込んだ蝋燭を狂ったように動かし続けている。
 材質的に易々と体内を傷つけられるようなものではないとはいえ、瓶よりも更に一回り太いそれを無理矢理受け入れさせられた後孔はみちみちと限界まで広がり縁が赤く腫れてしまって酷く痛々しい。
 果てて終わるということを知らない無機質なそれに犯され続けてさすがにぐったりと力の抜けかけたヘンリーの身体を、飽きることなく異形の獣が蹂躙している。なんとも醜悪な光景だ。
「ヘンリー、そう暴れるな。大人しくしていないと裂けてしまうかもしれないぞ」
「あ………、うっ……こ、こんな………」
「こんな?」
「こんな事をッ、……はぁ して、ただで済むと ……くぁぁぁッ」
 しっかりと腰が固定された状態でどんなに身を捩っても、化け猿を悪戯に興奮させるだけでこの拘束から逃れることなど絶対的に不可能なのだ。
 無駄に痛い目をみたくなければ嵐が去るまで大人しくしている方が賢明だというのに。
 スニファードッグのときにそれを嫌という程思い知った筈ではなかったのか?と私は少しだけ意外に思った。
 止まない抵抗は見ている分には面白が猿を興奮させることによってヘンリーが必要以上に汚れてしまうのはあまり好ましくないというのに。…賢いのか、愚鈍なのか今一つ分からない男だ。

 ずちゅ、と濡れた音をたてて圧倒的な質量を手加減を知らない力でアヌスへと突き入れられる。
 ギチギチと肉が引き攣れる苦痛に苛まれながら顎をぐんと反らせて激しく身体を痙攣させるヘンリーに、気がつけば私の視線は釘付けになっていた。
「あ…ッ、ひぃ…痛い、やめ…」
 涙と涎を惨めに零しながら、苦しむお前の顔がもっと見たい、喘ぎ声を聞きたい、悔しさに悶え絶望に泣き叫ぶ姿が見たい。
 彼の痴態を眺めるうちまた例の、ぞくりとしたえもいわれぬ快感が私の背を走り抜けていった。
「逃げたければ逃げてもいいぞヘンリー。解放してくれとお前が乞うならすぐに解放してやろう。…ただし代わりにミス・ガルビンを今のお前と同じ目にあわせることにするが」
 欲望の波にマトモな思考を打ち砕かれそうになっていたヘンリーが、嘲笑うように囁いた私のその言葉に弾かれたように顔をあげてこちらを睨みつけながら何やら口を開こうとする。
「っ…!!く、かっ……ッ、はっ………」
 が、出鱈目なリズムで腹の中に埋め込まれた異物を動かされることに吐き気を催したらしく、すぐに頭を垂れてぜひぜひと荒い吐息を吐くだけに止まった。
 素晴らしい、今の反応は壊れていない。私は酷薄な笑みを深めて部屋の隅に凝り固まっていた闇にそっと視線を送った。とろりとしたそれが私に応えるようにやわやわと輪郭を形作っていく。
 思っていたとおりヘンリーの精神はどこか頼りない見た目に反して随分と頑丈に出来ているようだ、そうでなければ面白くない。まだ遊び続ける事が出来る、まだ大丈夫。

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