▲戒 ヲルヘン(1)


※以下の文章には、クリーチャー×ヘンリー、強姦、道具の描写を含みます。
 苦手な属性のある方はどうぞここでおひき返し下さいm(__)m












 そう、なるべくならば綺麗なままの身体が欲しいんだ。
 少し硬い彼の髪を梳きながら耳元で囁く私に、ヘンリーは自由の利かない身体を激しく捩って抗い、黙れ、と相変わらず私を拒むばかりの哀しい言葉を紡ぎ落した。
 こんな事をしてヘンリーの両手両足の自由が利く状態でならば物騒な凶器で殴り倒されているかもしれないが、残念ながら今の彼にはそれらをふるえる自由など与えてはいない。
 耳障りな金属音がまるで悲鳴のように啼き喚き、耳が痛くなる程のしじまを掻き乱し白い闇に蕩けた。
 
 今、彼に許している自由は陥落の言葉を吐き出す為の声と、自分の身に降りかかる悪夢のような出来事が紛れもない現実であることを理解させる為の視覚のみ。
 邪魔な医者や看護婦には消えて貰った静寂と血に包まれた病院の一室で彼と向かい合いながら、私はもう一度「綺麗なままの身体が欲しいんだ」と紳士的に”お願い”してみるが彼から返させる言葉は
変わらず絶対的な拒絶を意味するものばかりだった。
 そして二言目にはまたミス・ガルビンの居場所と生死を問う言葉ばかり。
 ヘンリーは命の蝋燭の灯が消えかかった彼女を案じる余りいつもの冷静な判断力を失い、こうやって易々と私の張った罠にかかるような愚行を晒してくれたのだが心配しなくとも彼女も大事な生贄の一人なのだから
意味無く化け物の餌になどする筈がない。
 うんざりする程繰り返された同じ遣り取りに飽きた私は彼にそう言ってやったのだが、これまで数多の人の死をすぐ傍らで見続けて来たヘンリーにはその言葉も俄かには信じられないらしい。
「アイリーンにもしもの事があったら、私はお前を許さない」
 怒りと焦りに周りが見えなくなっている今の姿も中々に興味深いが、こうあまりに容易く堕ちても面白さに欠けるではないか。


 少しだけ興醒めし、さてどうしたものかと立ち上がり狭い病室内を歩き回る私の姿を拘束されたまま恨めしそうに睨みあげるヘンリーに、何をして遊ぼうかと道化のように両手を大きく広げてみせた。
 ただし、趣を変えて今日は追いかけっこは止めておこう。
 悪霊が取り憑いた車椅子に無理矢理座らせているのだから今の彼には自力で其処から逃げるどころか、立ち上がる事も出来ない筈だ。
 鎖も縄も無いが、目に見えない何本もの亡霊の手により車椅子に繋ぎ止められているヘンリーは悔しげに口唇を噛む。
 目に見える拘束ならば断ち切るか引き千切るか、振り解く手段も考える事が出来るのだろうが、こう何も見えない状態でしかし確かに縛めは存在しているのだから彼には如何する事も出来ない…さぞかし悔しいことだろう。

 先程、彼が意識を失っている間に持ち物は全て、悪霊を退ける厄介な力を持ったものも含めて全て丁重に預からせてもらったから今の彼にこの状態を打破出来る可能性のあるものは何一つ与えていない。
 見えない拘束を断ち切る鍵があるとすれば私が待ち望むただ一つの言葉だけだ。
「さぁ、ヘンリー。今日はどこまで気を遣らずに耐えられるか楽しみだ」
 窓際のベッドに並べられた、ヘンリーから”お預かりした”道具たち一つ一つに指を這わせながら彼に笑いかける。
 幾度も彼の窮地を救ってきた、化物の血に塗れた凶器と応急処置に使う道具のなかに意外にも私が彼にくれてやった人形の姿を見つけて自然と口元の笑みが深まった。
「ほう…大切にしてくれているみたいだな、ありがとうヘンリー。こいつはあの頃の私に色々な感情を呼び起こしてくれたよ」
 でももう要らないんだ、私を慰めてくれる新しい人形はもうすぐ手に入るのだから。
 そう呟きながら薄汚れた人形の髪をつい先程ヘンリーにしたのと同じように丁寧に撫で付け、指の先に絡めた毛糸の先に恭しく口付けを落とした。

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