un cauchemar シン&ヘン(2)


 兎に角、厄介なモンスターから庇ってくれた事に対しては感謝しなければならない。
 ついでにこの男に出口を探して悪夢を覚ますまでのボディガードをお願いしようかしら。
 実際のところボディガードというよりももしもの時の時間稼ぎにぐらいしか使えなさそうな頼りなさだけれども。

「ねぇ」
 身を屈め、胸の谷間をみせつけるように身体をくねらせて上目使いで男を見上げる。
 大抵の男ならばこの仕草でコロリと何でも言う事を聞いてくれるようになるのは今までの経験で良く分かっていることだから、困った時には迷わずに使える武器は使うことにしている。
「一緒に出口を探してくれない?…そうね、後でイイコトしてあげるから」
 これで頷かないようならば首の後ろに腕を絡め、身体に密着してダメ押しに豊満な乳房を押しあててやろうかしらと思っていたがウブそうな男はその誘いに無表情のまま頷き、呆気ない程簡単にこちらの要求を呑んでくれた。 
 「女なんて興味ない」って感じの顔をしている癖に、やっぱり極上の餌には釣られるタイプなのかしら?そう思っているとおもむろに目の前の男がモゾモゾと上着を脱ぎ始めて流石にこれには私も目が点になった。
 後で、ッて言ったのが聞こえなかったの?
 今こんな場所でヤろうだなんて信じられない神経してるわね、罵ってやろうと思って口を開いた瞬間、目の前が不意打ちで真っ白に染まり続く言葉を失ってしまった。

「きゃっ!!」
 男が脱いだシャツがこちらに向かって放り投げられたのを、私がキャッチし損ねて顔面で受け取る羽目になった…成る程、そういう事。
 真っ白な視界の原因が判明出来たと同時に「あ…ごめん」と紡がれた間の抜けた声に思わず怒りも忘れて噴き出してしまった。

「いや…こんな状態だし、空調設備も動いていないみたいだから、君の格好寒そうだなと思って。身体を冷やすと色々よくない」
 私はほら、下にTシャツを着てるし。そう量販店で買ったような地味なシャツをみせるヘンリーにお腹を押さえて笑い「私はブランドもの以外は着ない主義なのよ?」と嫌味を言ってやれば彼は困ったような顔をして
非常時は別だろ?と後頭部を掻いてみせた。
 その横顔がどことなく、家出同然に飛び出してきた田舎の実家にまだ居る筈の弟を思い出させてちくりと胸が痛くなった。


「さ、行こうシンシア。危ないから私の後ろを離れずについてきてくれ」
 ぶん、と先程化け物を一撃で叩き伏せた鉄パイプを野球のバットのように構えて何度か素振りをしてみせる彼に、私はだんだんと興味が湧いてきた。
「ベースボールの経験は?」
「…子供の頃に少し」
「へぇ、格好いいじゃない。そのフォーム、ヤンキースのデレク・ジーター?それともマリナーズの日本人かしら?」
 壁に身体を預け、腕を組みながら瞳を細め見ていると彼は暫く考え込んだ後でこちらを振り返り、「ベーブ・ルースかな」とはにかんで踵を返した。
「なによ、夢の癖に私のよく知らない名前出すなんてナンセンスだわ」
 言われた通り、後に続きながら私が両手を広げて軽く憤慨したように呟くと、彼はそうかな、とまた曖昧な答えを返して小さく笑った。





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