clean ヲルヘン(2)


「そもそも遺体だぞ、蝋人形とは流石に見分けがつくぞ、どうやって棄てるつもりだヘンリー」 
 このままでは押し切られて大事な我が身が捨てられてしまう。強引に詰め寄りながら問うと、これには流石にヘンリーもウ、と返答に困り何やら考えこんでいる。
 先程私の遺体が燃えるゴミと燃えないゴミの中間に置かれていたところをみても、ヘンリーもどうするべきかまでは考えつかなかったのだろう。よしよし、このまま押しの一手で「不可能だ」と諦めさせるしかない。

「……マネキンとマネキンの間に挟んで梱包…」
「一般雑誌の間にポルノ誌を挟んで捨てるようなレベルと一緒にしないでくれ。グーで殴るぞヘンリー」
 途方に暮れた子犬のような目でこちらを見上げるヘンリーに、私は施設の大人達がこぞって讃えるこの天才的頭脳が導き出したとっておきの解決策を披露してやることにした。
「そうだ、下半身の損壊も無いことだしヘンリー専用のダッチハズバnd     ゴブフぁッ……」
「笑えない冗談を言うとグーで殴るよ、ウォルター」
 最後まで言い切らないうち、笑顔のまま横っ面にフルスイングされた鉄パイプに私の名案は強制的に封印された。
 殴ってから言うとはなかなかにひどい仕打ちだ。今のヘンリーを見たらヴァルティエルも裸足で逃げ出すだろう。
 流れ落ちる鼻血を拭いながらよろめく私に、情け容赦ないヘンリーの追い打ち攻撃がかかる。

「そ、そういう破廉恥な用途は却下だ!」
 100歩譲って抱き枕もダメか?と提案したがそれもダメだと即答されてしまった。
 それほどまでに私の分身を部屋で保管しておくことに反対なのかと若干涙目になった私に、ヘンリーが俯き加減で口を尖らせた。
「そ、その、抱き枕なら間に合ってるしだな…」
 チラリ、チラリとこちらを盗み見ながら頬を染めてそっぽを向く仕草が殺人的に可愛らしい。
 嗚呼、こんな顔を見せられたら今までされた仕打ちが全て私の中で帳消しになってしまうではないか、ここでデレるとは反則すぎるぞヘンリー。
 ずるり、と腕の間から私の骸が滑り落ちるのも構わず目の前のヘンリーを抱き締めて、火照った顔のいたる所に啄ばむようなキスを落としてやると、やがて彼も観念したように恐る恐るこちらの背に両の腕を廻してくれた。
 それから後は、先程までの不穏な空気など嘘のように二人でソファに寄り添い、少し遅くなってしまった夕食を取ってから彼の望むように安眠を約束する抱き枕としての役目をしっかりと果たした。
 …あくまでも抱き枕であって、それ以上のことは依然許されてはいないが今の私には充分過ぎるほどの幸せだった。


 そんなこんなで私の遺体の処遇についてはあやふやなまま一日が終わり、数日たった後でそういえば、と思いだしたようにヘンリーが呟いた言葉。
「ebayに出品してみたら3ドルになったけれど…」
「オークションに出すなんてあんまりじゃないか…それに中途半端な値段がつくと結構傷つく。入札ゼロの方がまだマシだ」
 私があまりにも意気消沈するものだから、流石に哀れに思ったのかヘンリーが出品を取り消したことによって、「私」は未だあの部屋に現状維持のままで保留となっている。




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