clean ヲルヘン(1)


 基本的に掃除というものは好きではない。
 それは現在同居しているヘンリーも『マメな性格ではない』という部分では私と一緒だと思うのだが、彼は普段やらないくせに一度スイッチが入ると休日まる一日使っての大掃除をはじめてしまうから、
そういう場合大抵自分は「邪魔だから終わるまで出かけてきてくれ」と部屋から追い出される羽目になる。
 放り出されるのは納得いかないが、ヘンリーが頑張ってママを綺麗にしてくれるというのならここで不満を言うのも無粋でしかない。
 聞き分けの良い私はこういう場合はおとなしく従うことにしている。。
 …そうは言ってもヘンリーのいない外の世界は退屈だ。図書館の本も興味のあるものはすべて読み尽してしまったし、買い物は一人では面白くもなんともない。
 暇を持て余して公園のベンチでぼーっとしていたら疲れた顔の求職紙を握りしめた中年男性に「お互い大変だな、でもそのうち良いことあるさあんちゃん」と慰められてしまった。


 公園の時計を見れば既に16時をまわっている、そろそろいい頃かと302号室に戻って目にした光景に私は3度瞬きを繰り返して4度自分の目を擦った。
 これは…一体、どういうことだ?
「やぁおかえりウォルター、丁度夏物と冬物、それからいらないものの分類が終わったところだよ」
 思ったよりも重労働で疲れたよ、と汗を拭いながら可愛らしい顔でこちらに微笑みかけるヘンリーに一瞬頬が緩みそうになるがいやいや、今はそれどころではない。
 燃えるゴミ、不燃ゴミときちんと纏められたビニール袋の丁度中間に置いてあるもの…見覚えがある、どころの騒ぎではないもの。

「わ、私の遺体を棄てようだなんてひどいぞヘンリー!」
「え…あれ、まだ使うのかい?」
 儀式の部屋からそのまま引きずり出してきたらしきソレを背中で庇いながら、あんまりな仕打ちを非難するとヘンリーはぽかんとした顔で不思議そうに首を傾げた。
「なあウォルター、いつか使うかも、って思っていたらいつまで経っても部屋は片付かないぞ?」
 物わかりの悪い子供を宥めるような顔で収納上手な主婦みたいな事を言うな、儀式により別の肉体を得たからといって易々と捨てられるものではないだろう、こういうものは。

「だって使い道ないだろ?それ。何だか色々ゴチャゴチャくっついてるし。」
 色々くっついている、であっさり片付けられてしまったが、今の私に味方がいるとすれば損壊した人体で美の可能性を追求したジョエル=ピーター・ウィトキンぐらいだろう。
 世間は平凡である者には優しい顔を、非凡には棘に塗れた別の表情を見せるものだから世知辛いものだ。
 私の理解者はヘンリーさえいてくれれば満足なのだが、流石にこの方面になると彼に理解してもらうのは難しいかもしれない。

 そして完全に粗大ゴミのレッテルをはられてしまった自身の遺体を抱えながら私も言葉に詰まっていた。
 確かに彼が言うとおりもともと儀式の為に隠し部屋に持ち込んだものなのだから21の秘蹟以外の使い道など正直、ない。
 いや、無いにしても普通棄てるよりも先に埋葬という発想がでないだろうかいくらなんでも薄情すぎるぞヘンリー。
「ド、ドライブの時に私が同伴出来ない場合、車の助手席に乗せておけは変なのに言い寄られる心配がない」
「いいアイデアだけど検問にあった時に即拘留されるリスクを負ってまで、乗せたくはないよ」
 全く良いアイデアだと思ってくれていない目でヘンリーがにっこりと微笑む。
 確かに死体とドライブするような男が検問にひっかかったら翌日の朝のニュースペーパーの1面は約束されたようなものだろう。
 大事なヘンリーが国家権力に奪われてしまう、これは私にとっても深刻な問題だからやはりこの案はダメだ。

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