▲第二夜 ヲルヘン(2)


「で、これは一体どういうことかなウォルター」
 声色はいつもと変わらず穏やかなままだが、ベッドの上仰向けになったままのヘンリーの瞳の奥は笑っていない。
 それはそうだろう、夕食に薬を盛られて目覚めてみれば寝台の上に両手両足を大きく広げられた状態で拘束されていれば無理もない反応だ。しかも身につけているものは下着のみときている。
 引き攣る口元を持ち前の精神力で抑え込みながらヘンリーは、沈黙の後でゆっくりと口唇を開いた。
「よく聞いてほしいんだ、ウォルター。私は君の悪戯に対して少しだけ君が嫌がることをしなければならない、しかしそれは君が良い人間であり続けるために必要なことなんだ。…分かったらこの縄を解いてくれるね?」
 憂いを含んだ表情、慈愛に満ち溢れた低い声。私の愛してやまないいつものヘンリーそのままの振る舞いだが、今の彼の言葉を意訳すれば
「いつかの森でのようにスコップで顔面滅多打ちした後ぴくりとも動かなくなるまで股間をスタンピングされたくなければ、つべこべ言わずに縄を解きなさい」なのだ。
 人間、怒りを表に出さず彼のように内側で燻らせるタイプが一番恐ろしいことをヘンリーに惚れてから初めて思い知った私だからこそ分かる。

 正直今の肌を刺すようなぴりぴりとした空気は耐え難く、叶うならこのまま時間を巻き戻して頭から布団を被り震えながら赦しを乞いたい気分なのだが、仕掛けてしまった以上、今更ここで止めるわけにはいかない。
「ハハ…、お、お前が悪いんだぞヘンリー。私のことを蔑にし続けるから。そ、それよりもこれを見ろ、ヘンリー」
 今夜の為に準備しておいたとっておきの秘策を披露するために、寝台の上仰向けに固定した彼の丁度足元にあたる部分を指さすとヘンリーも渋々と訝しげな視線をそこへと向けた。
 横倒しになった植木鉢の中には、パッと見こんもりと盛られた土の他に何も入っていない…ように見える。
 これが一体何なんだ、と眉間に皺を寄せたままこちらを窺うヘンリーの顔色が、私の次の台詞でサァッと青褪め硬直した。
「トードストゥールの胞子を植えてある。これに水をかければ……私の言いたいことは分かるな?ヘンリー」
 そう、この角度で水を与えればトードストゥール…湿っぽい場所でなら爆発的に育つ異形のキノコは、雨後の筍など問題にならない速さで無防備に開かされたヘンリーの足の隙間に一斉に襲いかかるように伸びるだろう。
 下手に扱っては内臓を傷つけ目も当てられないような結果を招きそうな作戦だが、私のように成長速度を完全に把握していて尚且つ角度をきちんと調整すれば有効な脅しにも使える…筈だ。

「お前もハジメテをこんな化け物キノコに捧げたくはないだろう?それならばおとなしく私の言うことを聞いて…」
「さっ…」
 さ?震える声で紡がれたその言葉を聞き返そうと顔を近づけたところで、ヘンリーの悲鳴のような声が狭い部屋に響き渡った。
「最低だ、ウォルター。私は何かを盾に要求を無理矢理通そうとするような人間に惚れた覚えはないぞ、今の君は最低だ。顔もみたくない、これ以上私を失望させないでくれ!」
 


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