▲第二夜 ヲルヘン(1)


※以下の文章には、ベースはウォル×ヘンですが一部クリーチャー×ヘンリーを匂わせる描写を含みます。苦手な方はどうぞここでおひき返し下さい










 あの、地獄の寸止めを味あわされた夜から丁度一カ月が経った。
 目の前で出された餌をお預け、どころの話ではなかった。
 あれは既に口の中にいれ咀嚼していた餌を無理矢理吐かされ取り上げられたぐらいに酷いものだった、と、思いだすだけでも悔しさに震えが止まらない。
 結局、あれから朝方まで続けてしまった柔軟体操のおかげで、ヘンリーは「私から手酷い特訓を受けた」ことは覚えていても、恥ずかしい場所に指を突っ込まれたことは綺麗さっぱり忘れてしまったらしい。
 一先ずホッとしたが少しだけ残念でもある。
 しかし「いっそ死にたい」とあの悪夢の中でさえ洩らさなかった弱音を柔軟ごときで吐き続けるヘンリーを何度も鼓舞し、体力が尽きるまで特訓を貫き通したおかげであの夜以来ヘンリーは私に触れられることに抵抗がなくなったことだけは不幸中の幸いといえるだろうか。これは非常に嬉しい誤算だった。

 が、やはりその後の進展は全くないままで、清く正しい禁欲生活も続いている。

 有耶無耶になったとはいえアヌスに指を突っ込むことは許してくれた癖に、未だ口唇に触れることを許してくれないのはあまりにも酷な話だ、私の愛しいヘンリー・タウンゼント。


 そんな私にも、彼が私の求愛にこたえてくれるまで辛抱強く待とうと決意してから密かに繰り返している秘め事がある。
 朝起きるとヘンリーは一番に寝室のカーテンを開き、窓をあけて暫くぼんやりと外の喧騒を眺めるのが日課になっている。その足元から伸びる影にそっと彼に気付かれぬように口付けを落とすといったほんのささやかな楽しみが。
 直接触れ合えないのならば間接的にでもいい、これで私は一日満たされると半ば自己暗示のように繰り返していたそんな神聖な儀式の最中に、突然耳元に囁かれたリチャード・ブレインツリーの忌々しい声。
 「いつまで愚図愚図しているんだ、あぁ?要らないのならば掻っ攫ってやろうか」の響きにとうとう私の中で何かがぷつんと切れはじけ飛んだ。
 誰が好き好んでこんなナイチンゲール症候群の真似事などしているものか、私の苦悩と涙ぐましい努力など何一つ分かっていない癖にと虚空に向かい両腕を振り回したところで、物音に振り返ったヘンリーの
「朝から元気だな…遊んでるなら食事の支度でも手伝ってくれ」という呆れたような声に苛立ちは一気に加速した。
 私はヘンリーの為を思って我慢しているというのに、当の本人が終始こういった調子では報われないではないか、私だけが可哀想ではないか、こうなればまた実力行使に出るしかないではないか。
 恨むなら超絶鈍い自分を恨むがいい、そう心の中で呪いの言葉を紡ぎながら射殺す勢いで睨みつけてやっても、寝ぼけ眼のヘンリーは寝癖のついた髪を手櫛で撫でつけながら大欠伸を連発していた。

 以上、ここまでが今朝302号室で起こった出来事である。


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