無題 風間×荒井(3)


この腹の傷は鋭利な刃物の類で深く抉りつけられたものだろうか?
獲物を屠る武器に刃物を用いる事を好む奴等の顔が順番に浮かぶ。
厄介だな、と素直に溜息を吐いた。刃物狂といえば一筋縄ではいかない連中のなかでもとりわけ頭もきれて身体能力も高い数人の顔しか浮かばない、しかも荒井の傍らに転がっている彼愛用の鎌には一滴の血も付着していない。
手負いは彼だけ、完全に彼の分が悪い。

「荒井君、こりゃ君いよいよゲームオーバーだよ。残念だねぇ、明日から生意気な後輩がいなくなると思うと僕も寂しくなるなぁ。ま、あの世では精々今より素直になって楽しくやりなさいね」

 動けない標的にそっと照準をあわせて、僕は銃を構えた。
 命の灯火が今にも燃え尽きようとしている男に慈悲を与える為だ。思えばこの後輩とは出会ったその日から絶望的にうまが合わなかった。こちらのやる事成す事全てに難癖をつけてきて、時には非力な癖に喧嘩を吹っ掛けてきたこともあった。
 勿論軽々と返り討ちにしてやったけれども。
「サヨナラ、根暗君」
 そう囁いて引金を引こうとした時、彼は長く伸ばした前髪の間から僕を仰ぎ見、そして笑ったのだ。
 ふつ、と思わず息をする事も忘れてしまいそうな、はじめてみる彼の氷のような冴え冴えとした笑顔に一瞬頭の中が真っ白になり、慌てて取り落としそうになった銃を持ち直した。
 参ったな、生を諦めた人間の癖に、この僕に失われる事を惜しいと思わせるなんて君そりゃ反則だよと口の中でぼやき、引き攣る頬を片手で押さえた。



――「・・・なぁ、風間。お前、荒井のことどう思う?」
――「・・・ン?どうしたのいきなり。日野ってああいうの好みだっけ?意外や意外、あ、それともメンバーとして役にたっているかって話?それなら・・・」
――「・・・とぼけるなよ、お前」
―― 目で追ってるの、知ってるんだぜ?そう眼鏡越しの瞳を歪めて笑った男の顔がどうしてこんな時に思い出されるのか。
―― 馬鹿だなぁ、殺人と違って恋愛には先手必勝の法則は成り立たない、むしろ逆なんだよ分かってるのかい?先に好きだって認めちゃった方が負けなんだから、僕は負ける勝負なんかしたくないんだよ。

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