▲咎 獣×ヘン(3)


「ひうっ・・・」
 手負いの獣を追い詰めるなど容易い。
 背後から圧し掛かられ、空いた後孔にいきりたった犬のペニスが押し込まれて静かな森に再びヘンリーの悲鳴が響くのを私は眼を瞑ったまま聞いた。
 すう、と息を吸い込んで独り言を言うように乾いた口唇を開く。

「辛いか?」
「ひ、・・・・ん、あっ、あ、あぁぁッ・・・」 
「辛いなら私に縋りつけばいい。助けを乞え。私ならお前を解放してやれる」
 ひぐ、と変な音をたてて喉を鳴らしたヘンリーが瞼を震わせながらこちらを見上げ、しかし逡巡の後無言で顔を背けてしまう。
 未だ耐えるつもりか?と片眉を少しだけ上げて、強情なその様子に私は歪んだ笑みを深めた。
 普通の人間ならばとうに頭がおかしくなってしまっているだろう扱いにも陥落しないその精神力は素晴らしい。
 が、肉体の方はそうもいくまいに。
 軍隊に入って心身ともに鍛えているような類の特殊な人間ではあるまいし、平凡な暮らししか知らない身体は現に血に塗れて長時間の凌辱に弱り切っている。
 もってもあと少し、今まで命を奪ってきた幾人もの人間の最期を思い出しながら私は静かに口を開いた。
「ここで死ぬぞ?」
 何の感情も滲ませない声で淡々と言えば、ヘンリーはもう何も己と言葉を交わす気はない、といった様子で頭を垂れた。
「獣とのセックスがそんなにイイなら、次はガムヘッドでも呼んでやろうか。ああ、ヒト相手がよければリチャードやジャスパーのゴーストにでも可愛がって貰えばいい」
 流石にこの言葉には、彼に似合わない舌打ちなど落としていたがやはりヘンリーの反応はこちらを前髪の隙間から睨みつけるだけに止まり、私の試みは失敗におわった。

 思っていた以上に強情な男だ、彼は。

 誤算に溜息を吐くと私は手の中で弄んでいた銃の照準を足元で蠢く物体にあわせ、躊躇いもなく次々と引き金をひいた。
 ギャウン、という叫び声と共に獣の身体が跳ねて地に倒れ、腐った血を真黒な地表にぶちまけていく。
 ヘンリーの上に覆い被さっていた獣の頭も正確に一発で撃ち抜くと、未だ倒れ伏したまま動けないヘンリーの身体からソレを乱暴に引き剥がして奇妙にぐにゃりと歪んだ重い死骸を蹴飛ばしてやった。
 スニファードッグを始末し終えてヘンリーを見下ろせば、血の気の失せた顔で眼を閉じていたが僅かに上下する胸の動きに死んでいるわけではないことを確認できた。
 ただ其れだけのことなのに、また心の奥がざわざわと喧しく騒ぐ。


 硝煙の臭いが立ち込める中で傷だらけの頬に触れ、存在を確かめるように一頻り撫でつけた後で私は不器用に贄を抱き上げ、屍が転がる昏い森を後にした。

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