夢見が悪い。現実で突きつけられている悩みを夢でも味わされるなんて、どこまで私を苦しめるつもりだろう。押し付けるつもりはなかった。この恋が成就することは不可能だと気付いていたけれど、片思いで私は満足していたから。
スマホで設定していたアラームが鳴り響くまであと一分。私は停止ボタンを押してから溜め息を吐いた。赤井さんとの任務は昨日でおしまい。今日から私は別のFBIと組んで捜査にあたる。
元々その予定であったから案外都合が良かった。当分赤井さんと顔を合わせなくて済むと言う事実に安堵すらしていた。失恋したから所属を変えてくださいなんてあり得ない話だ。

「……公私混同はだめ」

ならば、次に会う時までに覚悟を決めておかなければならない。前のように接するのか、ついて回るのをやめるのか、もう二度と会わないように……。
そこまで考えたところで家のインターフォンが鳴り響いた。こんなに朝早くからの来客なんて身に覚えがない。身だしなみを軽く整えながらモニターを覗いてひっくり返りそうになった。

「赤井さっ……痛い!……なんで……?」

膝をぶつけてよろめいた私を受け止めてくれる壁と一体化になる逃げは通用しなかった。
もう一度押される催促の音に私は恐る恐る玄関を開けた。チェーンを外さなかったのは、あまり顔を見たくなかった、支度前の顔を見られたくないと言う両方の思いがあったからだ。

「おはようございます」
「おはよう。入ってもいいか?」

いいわけがない。引き攣る表情に臆せずぐいぐいこちらに近付いてくる彼の迫力に負けて私はまずドアを姿が見えるまで開けることにした。私のだらしない格好を上から下まで眺めて無言で頷く赤井さん。普段だったら失礼ですねとか何か言ってくださいとうるさく騒ぐことが出来たのに、今はもう出来ないのだ。
根に持っていると言われたらそれまでだが、あの言い方はないと思う。起きたばかりと言い訳を使って静かな声で、ここに来た意味を問う。

「一体どうしたんですか。赤井さんは今日から先輩と回る予定ですよね?」

そして私は後輩の男の子と組んで調査を行う。そういう段取りだったはずなのに、赤井さんはしれっと「邪魔する」と中に入っていくものだから、私は慌てて扉を閉めて追い掛ける。

「変更になった。お前はこのまま俺と組んでもらう」
「……連絡来てないんですけど」
「急遽決まったことだからな。俺が伝えるから入れる必要はないと言っておいた」

どっかりと居間のソファーに座る赤井さんを見下ろして、なぜですかと訴える。やっぱりタイミングが色々とおかしい。突き放すようなことを言ったり、急に傍に居させてみたり。
いつも一人でやり遂げてしまうすごい人が私にフッと微笑む。

「そうでもしないと、逃げるだろう?」

それが冗談なのか本音なのか判別が出来なかった。自分の言葉の意味が私にどういう風に伝わっているのか、考えてはいるらしい。傷付けて遠ざけるつもりはなかったのだろうか。

「見くびらないでください」
「優秀な部下のフォローの為だ。まだ名前にはやってもらう仕事があるんでな」

読まれているみたいで気分が悪い。私はもしかしたら、そうしていたかもしれない。こんなにもやもやしながらではいつか絶対ミスをしでかしそうで、それならばと一思いに別の現場へ足を踏み入れるのもいいかなって。傍にいたい人はもう、いないから。

「あと一時間で出発するから準備しろ」
「嘘っ!うう、赤井さん、コーヒーとか出せませんからね!」
「ああ、分かっている」

どたばたと身支度を始める私なんて見ずに煙草を吸い始める彼への注意も出来ない。
気心知れた仲という認識はもうどこかへ行ってしまった。


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