彼がついている、守ってくれているという存在感は敵地へ向かう私の気負いをずいぶん楽にしてくれた。言い方は悪いかもしれないがここで私が倒れても何の問題もなく事は進む。加えて負傷した私を回収してくれるところまで想像できるから安心だ。
イヤモニで逐一報告を入れる邪さに気付かれたのか、スコープ越しにこちらを見ているであろう赤井さんに諭される。彼よりもずっとターゲットに近い距離にいる私が能天気な返事をするものだから、私の上司が溜め息を吐いたような気がした。

「任務完了。お疲れ様です、赤井さん」
「ああ」

今日も上手くいった。私の腕もどんどん鍛えられているようで嬉しい。
赤井さんにも教わった技を披露できたことを話せばそうか、と彼が表情を緩めた。

「赤井さん今度はもっと高度な技をお願いします」
「お前にはまだ早い」
「えー」

唇を尖らせる私と違って赤井さんは終了後の一服中。スパスパ吸っている彼の傍にいるせいで煙草の匂いにもだいぶ慣れてしまった。前はどこかへ行っていろと邪険にされていたが最近ではもう諦めているようで隣でスマホを操作する私のことを放っておいてくれる。

「あと名前、敵前ではもう少し静かに出来ないのか」
「私うるさいですか?」
「ああ、お前と話していると大事なことを見落としそうになるぐらいにはな」

それはつまり、大から小まですべてに付き合っているとろくなことにならないと。でも話を聞いてくれるし、私も安心できるしで良いことづくめなのに。
赤井さんはそう冗談を言うけれど、彼に限って聞き漏らすことなんてないし私だってそこまで鈍っていないつもりである。そんなことをずらずら並べてみたら急に頬を抓まれた。

「い、いひゃいれす!うう〜っ!」
「……こんな時までうるさいんだな」

もがもが暴れる私の前で肩を落とす。解放されてひりひりする頬を押さえる私を見下ろしている赤井さんが煙草の火を消した。そろそろ向かおうと言う合図に倣って私も歩き出す。
痛いけれど、嬉しい。緩んでいく表情と熱を悟られないように微笑んでいたのに、目敏い赤井さんはいつの間にかこちらを振り向いていたようだった。

「なぜそんなに嬉しそうにする?」
「だって赤井さんが触ってくれたんですもん……え?」
「俺がしたことに意味はあるのか?」

追求の目が私を捕らえる。どんな形でさえ彼に見つめられるのは居心地が悪くなる。赤井さんが所謂プライベートのことで気にしてくれているという高揚感。
この恋にもついに決着をつける時が来たのか。駄目なら敬愛ですとか言って誤魔化せばいいと思いつつ、私はついに告げてしまった。

「私が赤井さんを好きだから、です」

そう言いながら、これは私の何度目の告白であろうか。むしろ何かにつけてアプローチしている私の気持ちを早く汲み取ってほしい。
軽いとか重いとか関係ない。私がいつも好きですと言っている思いを簡単にそうか、で片付ける年上の余裕。頬を膨らませて怒る仕種はもうさよならだ。
いつもと同じ口調に返ってきたのは、今まで聞いたことのない言葉だった。

「そうか。俺はお前のことは好きにならないがな」

わざわざ微笑みすら浮かべて返事をして、赤井さんはどんどん歩き出してしまう。
いつもの私なら待ってくださいよ、と語尾を伸ばして無理矢理隣に並んで、色々と話題を振って。あら、もうそんなことも出来なくなるの?

「私、フラれたんだ……」

遠くなる背中に何を言ったらいいか分からないが、とりあえず涙は出なかった。それでも受け入れられない現実を抱えながら歩き続ける。
私は今日、失恋しました。


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