駐車場でスマホを操作していたとき、突然助手席の扉が開いた。顔を覗かせるブロンドヘアーの女がサングラスをずらしながら「Hi」と挨拶をする。私が彼女の名前を読んでいる間、するりと身体を滑り込ませて数q先にあるホテルの名前を告げた。タクシー代わりにしないで、どうしてここにいると分かったのとか聞きたいことはあったけれど、この女にはすべて一蹴されてしまうことは目に見えていたから私は黙ってシートベルトをする。ベルモット、と彼女のコードネームを呼んで初めて「頼むわ」と言うので素直に頷いた。

「そう言えばあなた、バーボンと付き合っているの?」

信号待ちで外を眺めていたタイミングだった。ベルモットの口から出た質問に表情が強張ったのがガラスに映っていて自分の失態に今すぐに舌打ちしたい気分だった。何て答えていいか分からない。まあバーボンとは恋人になった、それは正しいことである。

「そうバーボンに聞いたんだけれど」

なんだ、知っていたのか。拍子抜けしたまま「そうなの」と頷けばベルモットは相槌は打つけれどさして興味がない様子だった。ベルモットとバーボンは二人で組まされることが多くよく一緒に行動していた。そこに私という邪魔者が入ることが気に食わないのか。「気を付けた方がいいわよ」と自分もそうなっているかのような口調で続ける。

「探り屋としては優秀だから」
「心配してくれるの?ベルモット」
「あなたにもそれなりの秘密はあるでしょうから」

妖艶に微笑む彼女の口癖は言わずもがな私の頭の中でリフレイン。誰にも言えない秘密。バーボンにも明かせない事情。ハンドルを握る力が少しだけ強くなる。

「実は私、彼のことを怪しいと思っているの。それで付き合うことにしたのよ」
「あらそう」

組織の中でも秘密主義者の人間は多い。バーボンもその一人ではあるが、質が悪いのは彼が探り屋として相手の事情まで把握していることだ。ベルモットの嫌そうな顔、組まされているところを見ると彼女も何か握られているのではないだろうか。
それか彼から私へ余計なことが吹き込まれないか気が気じゃないか。彼はそういうタイプではないが、もしかしたら私のことも疑っているのかもしれない。なるほど、今日二人っきりなのは釘を刺すのが目的か。

「あなた達、よく似てるわね」
「そうかしら」
「バーボンも同じこと言ってたわよ」
「……あ、そう」

遅れて出た言葉。冗談だとはバレているであろうがそれでも少しばかり収まりの悪い嘘だった。
お互いを疑っているから偽りの恋人として近付くことにした。私達の立ち位置ではよくあることだった。ハニートラップを仕掛ける必要性を感じている。幸いにも私はまだ何も揺すられていない。

「本気なの?」

ベルモットの問い掛けに応じていいか迷った。彼の秘密を暴きたい気持ちはないとは言えない。
彼が善人でも悪人でも、もう私はバーボンと言う人間を好きになっていた。

「組織間での恋愛は禁止されているのかしら」
「知らないわ。元よりするつもりもないし」
「そうよね。普通は」

どちらに転んでも離れたくないと言う女の性をベルモットに打ち明けるのは気後れする。
強くまっすぐに生きる女性の象徴でもあろう彼女が私に忠告する。そんなにあのバーボンと言う男は侮れない奴なのであろうか。

「コードネーム、敵うと思わない方がいいわよ」
「失礼ね。私達はちゃんと愛し合って恋人同士になったのよ」

何だか楽しくなってきた。あの人の顔を思い出して私はぞくぞくしてきている自分に気付く。
ねえ今日会えないかしらというラブコールにはすぐに答えてくれた彼の意志にまた、募っていく。

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