渡された遊園地のチケットと関係者用の見取り図を眺めながら風見さんからの指示を聞いていた。
すでにオープンされ賑わっている遊園地がリニューアルしたので改めて避難通路や犯罪防止に努めるために確認して来いというものだった。

「このチェックされたポイントだけだったら半日で終わりますね」
「ああ。だから半休を取って行って来い。許可は下りている」

風見さんが了承しているということはこれも上からの命令か。嵐の前に静けさのようで気持ちが悪い。
封筒の中身を確認すればチケットは二枚入っていた。苦々しい顔で確認している私の感情を読み取っているのか風見さんが分かっていることを付け加える。

「両方使うなら警察関係者と行けよ」
「……別に一枚だけ使ってもいいんですけど」

仕組まれているようで不愉快。私が自分から誘う相手など限られているし、彼への労いも含められているのかは当人達にしか分からない。決めかねている私へ、風見さんはゆっくりと表情を穏やかにして背中を押してくれる。
早くどうにでもなってしまえと視線を向けられているのは気付かないフリをしていたから。

「降谷さんなら付き合ってくれるだろう」
「まあ、打ってつけなんですけど」

気心知れた上司だし関係者としても内情を知っている。そして私も彼と遊園地だなんて浮き足立ってしまう。
これが最初で最後になってしまうかもなんて考えてしまったら、答えは一つだった。断られたら一人で行ってきますと言ったら「その時は慰めてやるから出社して来い」だなんて、情報筒抜けでも今だけはその励ましに甘えておこう。



その夜、私は意を決して降谷さんに電話を掛けた。だが無機質なコール音が聞こえるだけだったのですぐに切ってしまった。もうポアロのバイトは終わっているだろうから、毛利探偵の傍にいるのかはたまた組織の人と会っているのか。あのブロンドヘアーの美女のことを思い出してチクリと胸が痛む。
馬鹿だなぁ、本当に。不貞寝でもしてやろうと布団を被った少し後、着信を告げる音が部屋に響き渡った。画面には降谷さん、と表示されている。あーあー、と発声練習をしてから応答する。

『電話、すぐに取れなくて悪かった』

彼の声を聞いてだけですべて許せてしまう。むしろ私が悪かったと反省してしまうのだから惚れた弱みと言うことにしておこう。
こちらも謝罪をしてから用件を告げる。降谷さんは特別驚いたそぶりを見せず、ただ頷くだけだった。

『つまり、名字は俺とデートしたいんだな』
「すごくしたいです」
『分かった、じゃあ日付はこちらで指定してもいいか?』

すぐに了承してくれて淡々と日時、集合場所を決めてくれる降谷さんの前では冷静を保っていたが、私の心臓はもう爆発寸前だった。だってあの降谷さんとデートだ。前半は仕事の一環でもあるけれど。

『オシャレして来いよ』
「は、はい!」

上ずった声を喉でおかしそうに笑う。この人のこういうところも大好きだ。
いつも部下を率いて先頭に立つ凛々しさも、私をからかう意地悪な笑みも、甘く柔らかい振る舞いも。

「ありがとうございます、降谷さん」
『こちらこそ。俺を選んでくれて嬉しいよ』

その後は仕事の話になってしまったけれど、私はそれでも全然いい。
大好きな人とやりがいのある仕事を共にできる。まさに運命共同体。素晴らしい関係だと思っている。

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