油断していた、そう思うのは刺された昨日に続いて二度目だった。やってしまったと自責の念に駆られていたときに慌てた様子で降谷さんが病室にやってくるものだから、涙が出そうになってしまった。
緩み切った表情を引き締めてそっぽを向けば、はあ、と溜息を吐きながら息を整える彼が静かに扉を閉めた。具合は、とやけに素っ気なく聞くのは一昨日言い合った件が尾を引いているのか。

「チッ、風見さんめ」
「名字、返事」
「……かすり傷です。三日もあれば退院出来るそうです」
「そうか」

黙っていたらこの案件を外されそうで、失態を咎めない上司へ報告をする。幸いにも首謀者に顔は見られていないからまだ手はある。だが早急に行動する必要があるため、退院したらすぐに捜査に戻ると伝えた。
分かったと、余計なことは一切言わない降谷さんが黙り込む。

「この前は悪かった」

先に謝られてしまった。申し訳なさそうにする姿が意地らしいとかそれすら愛おしく見えるのだから、自分が行ったルール違反に恥ずかしくなった。

「いいえ、私も苛々してました」

会いたかったと素直に言えれば良かった。そういう可愛い女の子だったら彼はちゃんと私と向き合ってくれたのかな。

「降谷さん私、安売りしない主義ですから」

どんな風に見られたって関係ない。たった一人が信じてくれていればそれでいい。
プライドはちゃんと持っていることを明かせば、降谷さんは短くああ、と頷いた。
理解しているのに、自我を保てなくなることがこの世には存在する。

「抑え切れなかったんだ」

頬に貼られたテープに手のひらが伸びる。そっと撫でてくる仕種に身を捩れば傷口が痛んだけれど、それよりも彼のぬくもりの方がずっと鋭く突き刺さった。

「お前が誰かに触れられたと思うと、自制できなくなる」
「そんなの、私だって同じです」

ブロンドヘアーの美女、喫茶店の看板娘、女子高生、小学生。
人気がある彼の傍にいる女性達に嫉妬する私を彼に見せるべきではなかった。変化を怖がって求めているだけの臆病者が安室さんの手を取れるわけがない。

「褒めてください、降谷さん。私だけを」
「ああ。お前は自慢の部下だ」

降谷さんだけは、誰にも渡したくない。格好良くて少し意地悪で私のことを見ていてくれる大好きな人。ずっとずっと、この人の隣にいたかった。

「嬉しそうに笑うんだな」
「だって降谷さんは私の憧れですから」

私だけじゃない。公安の部下は皆降谷さんのことを尊敬し慕っている。若くしてたくさんの部下を従える彼の凄さを皆知っている。だからこそこの人についていきたいと思うし、私はそんな降谷さんの右腕になりたいと願っている。

「可愛い奴」
「安室さんには負けます」

あの媚びるような降谷さんはなかなか見物だった。ぺかっと百点満点の笑みも心を許してしまいそうになる破壊力だったと述べれば、からかうなと手が頭に移動する。
よしよしと撫でてくれる今日の降谷さんはいつになく穏やかだった。

「俺はいつも優しいだろう?」
「そうですねぇ」

病室の外、お見舞いに来てくれた同じ課の人達が早くくっ付いてしまえなんて覗き見していたことなんて知らずに、私達はただ二人だけの時間を味わっていた。

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