思わぬ情報を得られた。あくまでも平静に、そして世間話のように子どもたちの話を聞いていた私は、確信していた。

「へえ、そんなことがあったんだ」
「うん!今度名前お姉さんも一緒に行こうー!」
「いいですね!」
「行こうぜ」

子どもたちの温かな声に押されて笑い掛ける。阿笠博士も頷いてくれていて行く機会があった時には車を出してやろうと言ってくれるものだから私もそれに応える。

「コナンくんと哀ちゃんは?」
「コナンくんはまだ水族館で、哀ちゃんは一緒に来たんだけど具合が悪いって先に帰っちゃった」
「そっか。心配だね」

安室さんが目を掛けている少年はまだ現場に残っている。相変わらずの行動に苦笑が漏れてしまう。本当に、何から何まで小学生がすることではないと。

「何で灰原はあんなに姉ちゃんのこと嫌ってたんだ?」

そしてまた話が水族館で出会った記憶喪失の女性に戻ったことにほくそ笑む。髪、瞳、服装、常人ではありえない行動。一度会っておきたいなと思い、何とかして出会える機会はないだろうかと心配するふりをして探る。
すると、阿笠博士のスマホに電話が掛かってきた。その相手はコナンくんらしく、阿笠博士が今子どもたちとポアロにいることを伝える。

『警察病院に搬送されたからな。もう大丈夫だ』
「お見舞いに行かねーとな」

心の底から嬉しそうな子どもたちの前では出せない顔。私は口元を隠して今度のスケジュールを立てる。警察病院に運ばれたノックリストを奪ったとされる被疑者の女。
公安が先に手に入れれば、勝機は見える。
しかし、記憶はまだ戻っていないのだろうか。

「えっと……スタウト、アクアビット、それとリースリングって言ってましたよ」

女が倒れる前に、うわごとのように呟いていた言葉らしい。
酒の名前。組織の幹部達。もしかしてこれは想像以上にまずい展開なのではないか。電話越しから伝わってくる焦りが私にも届く。

『ポアロにいるんだったな?じゃあ安室さんに代わってくれ!』

ドキッ、と心臓が動いたような気がした。こんな時に彼の名前を出すなんてコナンくんはどこまで関係しているのだろうか。降谷さんと私が公安であることは知っている。
けれど、組織のことは?子どもには協力を仰いで私には無関係になれと?
また、ちくりと私の逆鱗に触れられた気がした。

「安室さんなら今日は休みですよ」

カウンター越しから届く梓さんの声。今朝突然休ませてほしいって言われてそれっきりだと心配する彼女の目が私へ向けられる。

「名前さん、連絡が取れたら伝えておいてください」
「困りましたねぇ」

それは出来ない相談です。直接的には言えず私も連絡が取れていないことを表に出す。
昨日のことがあるから別の意味ではあるけれど、これでも私は部下としてやるべきことをやりに来たのだ。

『名前さん?そこにいるのか』
「うん、今一緒にお茶してるのー!」

私が一人でポアロに来ていたことを、梓さんや子どもたちに見せること。降谷さんの指示を忠実に守っていた。まあ、きちんと収穫はあったのだから良しとする。

「実は最近会ってないんです。ここに来たら会えるのかなって」
「喧嘩でもしたのか?」

ホットケーキを頬張りながら元太くんに指摘され私は言葉に詰まる。
大人の余裕、何とか落ち着いているふりをして「内緒だよ」と人差し指を口元に立てた。

「えー?どうして?」
「何が原因ですか?」

意外と食い付きが良い。小学生も男女関係を気にする年頃なのかな。こうして一緒にいてすべて分かってもらえたらいいのに。到底無理な話ではあるけれど、でも少しは共有出来ていると思っていた。
お互いを守るために手を取り合ったと理解していたのは、どうやら私だけだったらしい。

「安室さんが私に何も教えてくれないから、かな」

彼はいつだって私を大切にするだけで、私には同等のものを返させてくれないのだ。

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