敵の車は首都高に入っていき、降谷さんもギアを入れ替えながら追跡する。彼の愛車のことなんて考えていないカーチェイスに持ち主よりも心配になる。
後ろからぶつけたことにより侵入者が焦ったように前に出る。これで連絡を取らせまいとする降谷さんの力技に思わず感嘆。さすが、と言いたいが多少無茶なことをしてまてでも止めたいのは当たり前のこと。降谷さんが、バーボンがノックだと組織にバレてしまう。それは何とかして避けたい事態。
後輪が悲鳴を上げながら流れていくようにカーブを曲がる。組織の者、降谷さん、そして続くもう一台。私がその対象者の存在に気付くのは遅くなってしまった。

「赤井!!」

降谷さんから何回か聞いたことがある。FBIの赤井秀一、まさかその人だと言うのか。因縁のある相手ということは知っていたがこうして見るのは初めてであった。
思わず身を乗り出す私を制すように、ガクンッと再び背中がシートに密着する。新たな敵を見つけたとでも言いたげに割り込んでくるマスタングに車体をぶつける降谷さん。
そんなことしなくてもいいのに、とは口には出せない私は見守ることしか出来ない。

「ヤツは公安のモノだ!」

彼女の様子に気付いたのは赤井さんの方が先のようだった。一般人の車に何度もぶつかり、トラックとの間に挟まれた軽自動車が宙を舞った。慌ててハンドルを切る降谷さんと反対側に避けた赤井さんの間に軽自動車が降ってくる。運転手や乗車していた人達の安全を確認するところまでは同じ。
それから先、私達の行動は分かれた。まず赤井さんの車が止まった。それを見てフッと笑う降谷さんが先へ進む。私はと言うと、突然停車した赤井さんの行動を読むことに夢中だった。
あれほどまで譲らなかった彼がなぜ、このタイミングで追走を止めたのか。一般人の無事を確認するため?姿を見られるリスクはFBIには不要?
車から出てくる様子もひたすら観察し続ける私へ、降谷さんからの鋭い声。

「いつまで見ている?そんなに気になるのか」
「はい、無性に」

彼の行動が示す意味が知りたい。降谷さんが気に掛けるのだから並大抵の実力ではないはずだ。
だからこそここで勝負から引いた理由を赤井さんを見て気付こうとする私の身体がアクセルによって降谷さんの車体に引き戻された。ぐえ、とシートベルトに締め付けられる。

「ふ、降谷さん!」
「ちゃんと前を向いていろ。舌噛むぞ」

女へぐんぐん近付いていく降谷さんの車。だが敵も簡単に捕まるような奴ではなかった。
大型トラックを踏み台にして下の直線道路に無理矢理飛び降りていくのはまるで映画のようにすんなりと決まった。
逃走を続ける女をみすみす見逃すわけにはいかない。何も出来ないもどかしさを抱えながら私は怖いぐらいの形相で前を向く降谷さんを盗み見る。
不安の色を隠せない私のことを気にする余裕はない。どんな時でも大丈夫だって私に笑い掛けてくれる降谷さんは今は、いない。
何か声を掛けた方がいいのだろう。邪魔になるから黙っていた方がいいのだろうか。
色々考えていた私の思考さえ遮るようなスピードで、私達が向かう先から走ってきた一台の車。

「まさか、逆走!?」

常識ではまずあり得ないことが次々と起こる。顔を見合わせて再び追い掛ける頃にはすでに、このカーチェイスは終わりを迎えようとしていた。

大きな爆発音とまばゆい光に目が眩む。車体が傾いたが絶妙なテクニックで停止させ、飛び出していく降谷さん。女の姿はなく、車数台が落ちていった形跡を映した後、ライフルを持って佇む赤井さんを睨み付けた。狙撃したのは一目瞭然で、詰めが甘かったのは私達の方だったと思い知らされる。取り逃がしたことには変わりはないが、どちらが優れた働きをしたか聞くまでもない。かと言って譲る気もドローにする気もないようだった。
向き合う二人の会話は聞こえない。私は降谷さんが恨んでいると言う赤井さんのことを車から下りて眺める。
顔、背丈、車種。一つ一つの情報をインプットしていれば目が合ったような気がしたが動じず堂々としていた。そのうちにファンファンと聞こえてくるサイレン。引き際は分かっているらしく降谷さんが名残惜しそうにこちらに戻ってくる。

「行くぞ」
「はい」

結局女の行方は不明。これからが大変になる。
組織の連中にも目を光らせなければならないし、バレる前に彼女を探して対策を取る必要がある。
やっと役に立てるときが来た。今までは別の任務についていたが私は今安室さんの助手として組織に近い立ち位置にある。まだ一員にはなっていないのだが探ることも協力することも出来る。
今度は堂々と、降谷さんの力になれる。

「降谷さん、帰って作戦会議ですね」
「……ああ、そうだな」

私は信じていたから、降谷さんの気のない返事を追求しなかった。
きっと大丈夫だから。今はただ一つでも多く降谷さんのために出来ることを考えようと頭の中でまとめ始めた。

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