「紹介します。この方は僕の恋人で、探偵の手伝いをしてくれることになった名前さんです」

あの日に見た面子に紹介する意味はあるのだろうか。毛利探偵と娘の蘭さん、居候しているというコナンくん。あと蘭さんの友達とコナンくんの友達、喫茶店で働く梓さん。まさに私がアポなし来店したときに嫉妬していた人達が勢揃いしていた。
集まる中、好奇心の目は私達に注がれる。急にポアロに来てくれだなんて言うから何事かと思ったら、降谷さんは安室さんのまま私の肩を引き寄せ「ちょうどいいから」と知り合いしかいなかったその場で公表した。

「名前さんって安室さんよりお若いですよね?お仕事とか何されてるんですか?」
「ええ。安室さんともっと一緒にいたくて定職には就いていなんです」
「お熱いねぇ」

どうしようもない設定ではあるが、これは降谷さんと一緒に決めたものだった。
あの任務が終わってから、降谷さんから指示された新しい仕事。それは自分と同じ潜入捜査に回すというものだった。つまり降谷さんと組織を追う側の人間になるということ。
出来れば組織のメンバーにはなってほしくないと言うのでしばらくは彼の恋人役兼アシスタントとしてのポジションを全うすることになる。まあ、もう役と言うわけではないのだけれど。

「今まで彼女が恥ずかしがるので言えなかったんです」

あの安室さんに待望の恋人が登場と言うことで先程から女性陣から質問攻めにされている。こういうシチュエーションを目の当たりにすればどうにかなるかと思っていたが、ずっと隠していた思いを素直に表現するというのは想像していたよりずっと難しかった。
代わりに答えてくれる安室さんの言葉が、ちくちくと刺さってくるようでお説教を受けている気分。

「これで堂々と僕への愛を叫べますよ」
「そう、ですね!」
「告白をしたのは名前さんからなんですか?」
「さて、どうでしょう。……でも、恋に落ちたのは同時だと思いますよ」

いちいちこちらを見つめて甘い言葉を次々述べていく安室さんの笑顔に勝てない。キャー!とはしゃぐ彼女達の前で私はただ赤面するしかなかった。
本当だったら饒舌にしゃべるのは私の役割だったのに、おかしいな。好きな人相手だとこんなにも駄目になっちゃって。

「安室さん止めてください。本当に、もう嫌です」
「拗ねちゃうところも可愛いでしょう?」

頭を抱き寄せて見せ付けるのも意味が分からない。刺激が強かったようで皆さん黙ってしまった。
私が安室さんの手から逃げて睨み付けたら、そんな資格はないと言うようにドヤ顔で返された。
もっぱら話の中心は安室さんでやっぱり恋人にも優しいんだねとか私も早く新一と、なんて揶揄われる輪から外れたタイミングでそっと耳打ちをする。
降谷さんから与えられた任務。僕のことが大好きでしょうがないんですって設定で一つお願いしますなんて出された命令。背く結果になってしまったが、まだ私には早かったということを理解してほしい。

「どうしてくれるんですか、降谷さん!」
「そうしたかったんだろ?」

掠れた低い声に反論の言葉が出てこない。今この場でそんなに悪い顔しないでくださいと唇を尖らせていたらゆっくりと彼の顔が近付いてくる。
まさかと思っていたら、重なった唇。
慌てる私と観察力の鋭い子に内緒、と人差し指を立てるジェスチャー。
空いた手をするりと絡ませて小さな仕返し。ラブラブですねと囃し立てられる中で恋の戦争には勝ったかもしれないけれど、敵はまだ他にいることを思い知ることとなった。

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