それから私は降谷さんと連絡を取らなくなった。警察庁に寄っても運良く彼と顔を合わせることがなく、私は胸を撫で下ろしていた。わざと避けているのだからちょうどいい。気を張っている今、ここで彼の顔を見てしまったら一気に緩むし情けないことを言ってしまいそうだ。
この計画を降谷さんに知られてはならない。多忙であり重要なポジションである彼の手を煩わせるわけにはいかないから、手伝ってもらう方々へ何度も口止めをする。
そうやって降谷さんを意識する度に考える。こんな風に思うことも出来なくなるかもしれないとかまた彼の部下としてやっていけるかなとか。
作戦をすべて伝え終えた前夜。私は耐え切れなくて降谷さんに電話をかけてしまった。おそらく彼も気になっていたのだろう。居場所を聞いてからこれから行くと言った声が切羽詰まっていた。
私の焦りが彼にも伝染していて申し訳ない反面、嬉しかった。冷静沈着な彼を崩してやりたいと願うやり取りも最後かもしれないから。

「何があった?」

とぼけた笑顔を作る私へ真剣な表情で問い掛ける降谷さん。悔しいけど、どんな表情も格好良いあなたは最高の上司だ。たとえこの恋が実らなかったとしても私の人生であなたと関われたことはとても貴重で素晴らしいことだった。だから悔いはない、そう言い聞かせる。

「大方今の潜入捜査で悩んでいるんだろ?」

組織の目を盗んで私に会いに来てくれて、相談に乗ってくれて。いつもは厳しいくせに甘えていいよと肩を叩く空気に酔ってしまいそうだ。
気付いている?言わせようとしている?
そっと彼の肩に額をくっ付けて、私はついに呟いてしまった。

「今だけでいいから、そばにいてほしいです」

仕舞い込んでいた気持ちが零れ出す。こんなところを誰かに見られたら安室さんに迷惑が掛かってしまう。分かっているのに止められない。
私は心から安室さん、と笑い掛けられない。傍に居られない。共有できない。

「……私も降谷さんが大好きって言いたい」

他の人が羨ましいのだ。憧れの人の隣で頬を赤らめるとか、絶妙な駆け引きやスリル。恋に恋するような燃える瞬間。
外では彼の名前さえ呼べない、駆け寄れない関係がもどかしい。こんなに思っているのに見せかけでも彼が見ているのは別の人だなんて。理解しているのに我慢できない。
ぎゅっと降谷さんの腕を握り締めれば、諭すように優しい声で私の頭を撫でた。

「昼のポアロでなら会ってあげますから、大丈夫です」

ずるい人。私の気持ちを分かっていながら場所を弁えている。
でもそれが降谷さんだ。自分の役割を見極めて如何なるときでも適切な判断で公安を正しい方向へ導く人。
これが最後の我儘なんだから許してください。明日の作戦を彼は知らない。
私も作ったような笑みで降谷さんに擦り寄った。きっと彼が嫌いなターゲットに甘える私。

「でも今夜だけは一緒にいてください」

結局はこれも私なんだけれど。
降谷さん、大好きです。私がいなくなっても幸せになってくださいね。

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