conan | ナノ


赤井さんに守られる女の子になりたかった。それは同時に背中を預けてもらえる関係には
ならないということを指す。どちらがいいかなんて、我儘な私には選べない。
彼は私を信頼してくれているから、後を任せて自分のすべきことを成し遂げる。
最初はそれでよかった。私自身も彼も守りたいと思ったし、強い人にならないと赤井さんは傍においてくれないと思ったから。実力も経験も身に付けて彼に信頼されるようになった今、こうして苦しい想いをするのは誤算だった。
いつしか伝えたことがある。私も赤井さんに守られたいと。
女としての最大の甘え。だって赤井さんが本当に守りたい人がいると言って去っていく後ろ姿なんて見たくないんだもの。私と一緒にいて、私を必要として。
対して、赤井さんの返答はこうだった。

「俺が守る必要などないだろう?俺はお前を信頼している」

最上級の褒め言葉と最低の嫉妬心が私の中でせめぎ合う。乾いた笑みの意味さえ分かっていない赤井さんにはそれ以上言えなかった。私が願った結果だ。今更か弱い女の子は通用しないし彼の負担にはなりたくない。

「いっそのこと忘れてしまいましょう」
「その方がいいのかな」

赤井さんは私がいなくても大丈夫。最初から彼は誰かに守られなくても平気な強い人だ。
とても頼りがいがあって、誰かの為に動いていて、大切な人のために命を懸ける眩しい人。
きっと私は、彼の大切な人にはなれない。涙なんか出なかった。
よく気付けましたね、とまるで誘導尋問だった。目の前の人が手を伸ばす。
こちらに来てくださいと言いたげな安室さんの手を、私は掴もうとしていた。

「安室くん、俺の大切な人にちょっかいを出さないでもらおうか」

空を切る手は無意識に彼のジャケットを握り締めていた。痛いほど力の籠った赤井さんの
大きな掌が私の肩を引き寄せて、腕の中に閉じ込められた。逃がすまいとする力の入れ方は愛情か裏切りか私には判別がつかない。

「嗅ぎ付けるのが早かったですね、赤井秀一」
「恋人のピンチに駆けつけることが出来なくてどうする」

不敵に笑う赤井さんを前にして泣きたくなってきた。目頭が熱くなる私の心がどこを向いているか分からないのか、「赤井さん……」と蚊の鳴くような声に彼の手が私の背中を撫でる。

「お前の不安は後で聞いてやる。だから今は、」
「ハッ。そういう傲慢さが彼女を傷付けているんだよ!」

ただ委ねるだけでいい。
安室さんが赤井さんから私を引き剥がして自分のものと言いたげに腕の中に閉じ込めた。
首裏から後頭部に掛けて辺りに回る手のぬくもりが恋しかった。何も見なくていいからと
黙ったまま伝えてくれる安室さんは、私のことを守ってくれると言ってくれた人だった。

「名前は僕が守る。あなたはもう必要ない」
「それを決めるのは安室くん、君ではない。名前を返してもらおうか」

珍しく、赤井さんの方から仕掛けてきたらしい。私が振り向いた先では戦闘態勢に入る
赤井さんがいて、安室さんが優しい手付きで私を離した。目の端を拭う仕種を見せるのは
赤井さんへの牽制か。ギリ、と悔しそうな顔はしないでほしい。私はもうあなたの元から離れることを決めたのだから。

「どちらを選ぶか名前に決めてもらいましょうよ」
「そうだな。勝った方から答えを聞こう」

男って勝手なんだから。肉弾戦を始めてしまう二人を横目に私は投げ掛ける言葉を探していた。
本当に、私も彼らも馬鹿だ。運命の赤い糸なんて見えないのだから私はただ、信じる道を進むしかない。



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