自信があるわけではなかった。世の中には天才がごまんといるし、作曲は趣味みたいなものだ。自由に表現できる方法の一つ。誰かの為になるのならそんな嬉しいことはないけれど、こうしてアイドルに聞かせるのはすごく緊張した。

「へえ、名前ちゃんってこういう曲作るんだ」
「俺達らしいメロディーだな」

羽風先輩と乙狩くんはそう言ってくれるけど、同じ部活である朔間先輩と大神は無表情だった。

「お前のっていつもワンパターンなんだよなぁ。分かりやすい」
「歌詞もちと硬いのう」

マイナスな部分は前から言われていたことだった。あの頃は頬を膨らませて拗ねることが出来ていたが、今はそういうわけにはいかない。欠点は直していかないと後々彼らに迷惑が掛かる。
私の曲を歌ってほしいと要望するなら尚更だ。

「恋愛の曲は書かないのか」

朔間先輩が何気なく放った言葉に眩暈がしてくる。ぐるぐる廻る記憶は私が孤立する前のことだ。
どんな音にも色恋沙汰の歌詞は載せられない。冷や汗が流れてきて、私は曲を引っ込めようと声を絞り出す。

「あの、やっぱり……」
「サビはもっとこう……ガツーンと!」
「これこれわんこ、机に上るでない」
「良かったら俺が作詞してもいい?名前ちゃんに向けて頑張っちゃうよ〜」

考え方がそもそも違っていた。私は駄目ならなかったことにすればいいと後ろ向きになってしまうのに、皆は改良しようと、こうした方がいいとアドバイスをくれる。私一人では絶対に出来なかったこと。

「……笑わないんですか?」

つい、そう聞いてしまった。

「一生懸命やってた君のこと、みんな見てたんだよ」

羽風先輩の言葉に嘘です、と言ってしまいそうだったけど感じが悪いのでやめておいた。
私のことなんて誰も気にしていない。閉じ籠ったまま忘れられていくだけなのだから。

「まあ、羞恥心に震えるおぬしの顔も一興じゃったが」
「朔間さんも分かる?もっと構いたくなるよね」
「……っ!?」

二枚看板が並ぶと絵になる。その会話の内容が私だと気付いて、かあっと顔が熱くなった。
なんてことを言うのだと文句の一つでも返してやりたいのだが美形二人を前にして太刀打ちできるほど経験豊富ではない。

「……大神、少し直したいから手伝って!」
「俺様に命令してんじゃねぇよ!今日だけだからな!」

結果、ギターを手にして大神へ逃げた。後ろでくすくす笑う上級生の余裕さに自然と膨れっ面。ぷんぷん怒っていた私は気付かなかった。
少しずつでいいから、前みたいに笑ってくれなんて見守っている人がいただなんて。



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