一人で音楽室に籠る姿を見るのは何度目か。放課後に最上階まで用事があり、気が向いたときにだけ足を向けて見れば大抵そこには彼女がいた。
鍵を掛けて誰も入れないようにする彼女だけの楽園。一人きりのステージはさぞ気持ちが良いものだろう。自前のギターを掻き鳴らしたり、ピアノを弾いてみたり、名前が曲作りをしたりして過ごしているのは知っていた。黒板にへたくそな絵でステージ風景を描いたり、衣装合わせの真似事をしているときもあった。あんな風に関わりを持ちたいと願うのなら、どうしてと疑問が浮かぶ。だがそれを助けてやるほど自分は優しくない。
現状のままが良いと隠れているだけなら、瀬名泉は何も言わない。今日もまた途中で踵を返した。あの時、自分がきついことを言ったから天の岩殿のように出て来なくなったとしても、瀬名泉は名字名前には何の罪悪感もない。

今日はKnightsのスタジオ練習の日だった。瀬名が集合時間前にスタジオ入りしたときにはすでに他のメンバーは揃っていた。用意したベッドで眠る凛月だけがまだ準備が出来ていないようだった。

「ちょっとくまくん、もう練習始まるんだけど」
「それがねぇ、昼間よく眠れなかったとかで全然起きてくれないの」
「凛月先輩!始めますよ」

鳴上と朱桜が揺さぶっても凛月はいやいやと頭を振ってまくらを離そうとしなかった。どんどん不機嫌になっていく瀬名の近くにいたあんずも慌てふためく。ひとまず、今日の練習メニューですと言って表と譜面を配り始めた。へえ、と瀬名が頷く。あんずが用意した練習曲は今まで見たことがないものだった。

「今日はこれをやるんですね?」
「曲も今流すね」

あらかじめ用意していた曲が鳴り始める。アップテンポで軽快なメロディー。各々譜面を見つめながらリズムを刻む辺り評判は上々の様だった。あんずが持ってきた新しい曲は学園で配布している練習曲だった。出来立てだと言われて教師から渡されたデータの中にはまだ良さげな曲が眠っている。その中でもKnightsに合いそうなものをピックアップしてきたのだ。

「この曲って……」

むくり、今まで横になっていた凛月が起き上がってくる。耳を傾けていたのも早々に、先が気になると言った様子で近くにいた朱桜の手から譜面を抜き去ってしまった。
ちゃんと凛月の分も準備しているので、あんずは二人の元へ寄り、凛月が譜面を離さないので新しいものを朱桜に再度渡してあげた。

「何かありましたか……?」
「ううん、俺もやる」

凛月が覚醒していく。着換えてくると言って急にやる気になった彼に対して疑問符が飛ぶが、こういったことは特別珍しいことではなかったので少し経てばメンバーはさして気にしなくなった。
練習する気になってくれるのは良いことだと笑う一方、未だ譜面を見つめる瀬名はふん、と凛月の現金さが面白くなかった。
瀬名だけが、凛月がご機嫌になる理由に気付いていた。たまにスイッチが入るとき必ず関係している曲。その音源は名前が作ったものだと知っていたから。



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