重い身体を引き摺ってでも学校に行こうとは決めていた。しかし、夜に強く昼間に弱い凛月に合わせていたら案の定いつもの時間には起きられなかった。
慌てながら勝手が分からない凛月の家で準備をし、遅刻というのにのんびりしている凛月の背中を押しながら登校することにした。

「ほら、凛月ー。自分で歩いて」
「やだぁ。名前が手を引いてよ」
「我慢して」

目を擦りながらふらふら歩く凛月のことが放っておけないため余計な神経を使ってしまう。今まで見たことがなかった彼の姿。微笑ましさと更生させねばという使命感に襲われる。
そしてもう一つ、同じクラスであることを恨んだ。二人仲良く遅刻なんて姿は見せたくないと悩む私の隣、凛月はさっきから欠伸ばかりしている。

「んん……身体は平気?」
「ちょっとだけ怠いけど」

つい思い出してしまって身体を伸ばしたり、凛月に付けられた跡を隠すために身なりを整える。
そんな私の姿を見て嬉しそうにする凛月に何か言ってやろうと思ったが、彼の幸せそうな表情から出た言葉は私が想像していたものとは違っていた。

「ふぁ、ふ。なんか新鮮」

指先が摘まみ上げるのは私が着ているワイシャツの袖口だった。いつもより長いこれはもちろん私のものではない。昨日はそのまま凛月の家に泊まらせてもらったので貸してもらったのだ。
彼シャツだねぇと女の子っぽいことにご機嫌になる凛月が先に学園の門をくぐる。
私は妙にドキドキしながらその後に続いたのだが、警備の人はこちらを一瞥しただけで遅刻を言及することもなかった。
私が何を着ていても誰も気付かない。いや、気にしないのだ。自分が怯えるより周りは重要視していなくて、きっと欺くことは簡単なのだ。
煌びやかな舞台に上がるための理由はすべて自分が定めていたもの。
本当は何も持っていなくても彼は手を伸ばして待っていてくれた。そう、今みたいに。

「手を繋いでいこうか、名前」
「うん」

教室まで、と言いかけてやめた。もういいじゃないか。私が誰を好きで、彼が何を思っているかなんて。
遠回りしてきた結果で今があるならめでたしめでたしで締められるけれど、もしかしたらそうじゃない未来があったかもしれないのだ。凛月の眠そうな顔を見つめながら安堵する。
食べられちゃいそうな魅惑的な夜も、庇護欲を駆り立てられる朝も、すべてにおいて愛しく感じる。

「ねえ凛月、ありがとう」
「んー?どういたしまして?」

たくさん心配かけたけれど、二人で作り上げるこれからが幸せなものでありますように。
凛月のワイシャツを身に纏った仮初のドレスコードで皆がいる教室へ迷うことなく歩き続けた。



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