探すことがこんなに大変だとは思わなかった。自分のことばかり考えて閉じ籠っていた私は、二回歩き回ってようやくガーデンスペースで寝ている凛月を見つけることに成功した。
木陰で規則正しい寝息を立てている彼は私がやってきたことも気付いていないようだ。私を映す紅い瞳は閉じられたまま、ねえ、と呼び掛けても反応がない。
凛月の隣に腰を下ろしてそっと肩を触れ合わせてみる。やっぱり起きない。
幸せな夢を見ているのかな、猫みたいな彼の黒髪が私の視界に入り込んでくるのを眺めながら小さな声で愛しい名前を連呼する。
予行練習はそうして始まっていった。

「この前は嬉しかったのに断ってごめんね。私が、凛月のことばっかり追いかけていたから盲目的になっちゃったりして色んな人に迷惑をかけた」

黙って見守ってくれる先輩、心配してくれるクラスメート、助けてくれる仲間。
誰も必要としないとか一人でいいとか鍵を掛けて塞ぎ込んでいた私を少しずつ引っ張り出してくれた。明るい場所へ連れ出してくれた。

「みんな優しくしてくれて、私は初めて凛月以外の人と深く関わりたいって思った。プロデューサーを本気でやって、たくさんのアイドル達を輝かせたい。凛月一人のために頑張るのは違うって思ったから、専属にはなれない」

あんずちゃんのような敏腕プロデューサーにいつかなれるかな。格好良い曲から可愛い曲まで用意出来て、衣装も張り切って作ったり、大きなステージを企画出来たり。
やっぱりそこで一緒に成し遂げたいのはKnightsだって、凛月とだよって言わないと君は頷いてくれないのかな。いいよ、分かってくれるまで付き纏ってやるんだから。

「ステージで凛月と一緒に歌えて、死ぬほど嬉しくて、これで十分だって決意したのに。どうしてだろうね。やっぱり、好きなんだよ。誰かのものになってほしくない」

これは私の我儘だ。境界線を引いてもなおどちらも掴みたいと願ってしまった私の身勝手な告白。

「もう遅いかもしれないけどちゃんと伝えるから聞いてね。一生大切にするから、私と付き合ってください」

後輩にも先輩にもユニットメンバーにも渡したくないという私の正直な気持ち。
遅いよと愛想を尽かされてもいいからちゃんと伝えるつもりだ。
私だってあなたが好きだと。恋人になりたい思いは変わっていないということを。

「……はー……」
「溜め息とか狸寝入りとかひどくない?」

独白に返ってきたのは長く息を吐き出す音。ずるずると木の幹に添って体勢を崩していく凛月を睨む。この人ならこういうことをする予感がしたのだ。何というか、鋭いから。
誰もいない二人だけの場所を選んだのも理由の一つ。練習のわりにちゃんと話せてよかった。
どんな結果にしろ、弱さを見せるのは嫌だったから。

「名前、俺面倒くさいの本当嫌いなの」
「知ってるよ」
「だからもう、いいかな」

覚悟は出来ているつもりだったけどやっぱり怖くて目をぎゅっと瞑る。
もうお前なんか知らないって置いていかれる辛さだって受け止めると決めていたのに凛月の冷たい背中なんて見たくない。
待っていたのはぬくもりだった。回された手にぎゅっと力がこもって、私の肩辺りで擦り寄る黒髪は紛れもなく凛月のもの。懐かしい匂いがした。柔らかい響きが耳元をくすぐる。

「俺の恋人になって」
「……うん」

一旦身体を離されてじっと見つめられる紅に気恥ずかしくて逃げようとする。
細められた瞳と腰に回された手が物語る。あの頃よりも妖艶で引き込まれるのは変わっていなくて思わず「好き」と言葉が出た。本当に、この人のことが好きだ。
何度も触れるだけのキスをする。ぽっかりと空いていた隙間を埋めて足りていない分も求めている。
気付けば、誰に見られたっていいから邪魔だけはしないでほしい一心でしがみついていた。



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