後悔なんてしてはいけない。これは自分が決めた道じゃないか。
最初から結末は分かっていた。ドレスもティアラも投げ捨てた私がボロボロになったそれらを拾い上げても意味はない。相応しくないものを身に着けたところでもうお城へは入れさせてもらえないのだ。
きっとそう、舞踏会の中で待っているような人に呼び止められて、私はゆっくりと振り返る。

「……瀬名先輩」

こんな私でもまだ話を聞いてくれるんですか。

「もっとぐっちゃぐちゃに泣いてるかと思った」
「ある程度、想像していたことですから」

凛月も私もお互いに依存していてはだめだ。あのときの関係はもう終わったし今更戻ることも出来ない。
二人の見ている世界は別々で、いつか交わる日のために進むべきだった。私だけの一方的な片思いだったら私が諦めるだけで済んだ話なのに。

「どうして上手くいかないんでしょう、瀬名先輩。悲しませたいんじゃなくて、私は凛月に分かってほしかっただけなのに」

言いたいことはちゃんと言った方がいい。凛月の背中に躊躇する私に視線でそう強く投げ掛けてくれたのは瀬名先輩だった。
あれがずっと抱いてきた凛月の本音。我慢させてきたことが一つ一つ明るみになってきて、最愛の人の我儘一つ聞いてあげられない立場。

「好きだって言ってもらえて、すごく嬉しかったのに……!」

もう何もかも遅かった。私は凛月のことだけを思っていたあの頃に戻るのが怖いし、これから先のことを考えても保証なんてどこにもなかった。
それに彼はアイドルであり私が隣にいていいはずがないとすら思い始めていて、だから忘れようとしていたのに。凛月にも先手を打ったつもりだったのに。

「くまくんのこと、本当にいいの?」
「だって私、もう……」

瀬名先輩の優しい声が降ってきても私は顔を上げることができない。泣く資格なんてないことは分かってるのに、凛月の今にも泣きそうな表情が頭から離れない。
絶えず流れてくる涙を拭って、彼を慰める他の子のことを考えて私はまた悲しくなる。
やだよ、どうして私が彼の傍にいられないの。

「俺に手間かけさせないでよねぇ!」
「ご、ごめんなさい……」

断った側が急にうじうじし始める様子を見て瀬名先輩の舌打ちを浴びせられた。
瀬名先輩はどう思っているんだろう。多分聞いても自分で決めろとしか言われないだろうけど、とじっと見つめていたら彼がまた息を吐き出す。

「ねえ、名前は分かってる?くまくんがあんたを専属にしたかった理由」
「……離れてた時間を取り戻すため?」
「それもあるだろうけどぉ」

空白を埋めることを選ぶ彼とこれから先の空白を作ることを選んだ私。

「あんたが自分といる時よりも楽しそうだから、捕られたくなかったんでしょ」
「……もしかして」
「そう、くまくんの兄貴。思えば最初からずっとだよねぇ」

専属にすると言ったことも、最後に漏らしてしまった傲慢な要求も。全部私を思ってのものだと言われて、目頭がまた熱くなる。
素直に信じて返せばいいだけの話をぐるぐる一人で考えてしまうのは私の悪い癖。深みに嵌らなくても凛月はずっと曲を大事に仕舞っておいてくれた。
成長しているなんて嘘だ。もうすべてが嫌になって声を上げながら瀬名先輩の名前を呼んだ。

「はいはい、今だけ肩貸してあげるから。あーもう、こんなところ見られたら俺がくまくんに恨まれるんだからねぇ!」
「一緒に怒られてください……」
「巻き込まないでくれる?」

心地良いペースで背中を叩いてくれる。彼の肩口に額を埋めて涙を流すことが無駄にならないように、私はあの人に会いに行くことを決心した。



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