きっと誰もが喜んでくれるはずだったのに。

「良くやったな、名前!」

デュエルで勝利したとき、みんなの笑顔を見て確信に変わった。今までずっとKnightsの曲を作っていたのは月永先輩で、それは鋭利な武器として絶対的信頼を寄せるものだった。
その中に一つ投じた新しい刃が今日また一つの栄冠をもぎ取った。貢献できた喜びに目頭が熱くなる。私がKnightsに送った曲で彼らが歌い、踊り、最高のパフォーマンスを見せてくれた。
月永先輩という師匠にもだいぶ助けられた。でも彼がご褒美というように抱きしめてくれて自分のように喜んでくれて本当に嬉しかった。瀬名先輩も、嵐ちゃんも、司くんも新しいこれからの私を応援してくれる。
今日が、凛月から出された条件の最後のドリフェスだった。無事にKnightsは勝利を収め、これで晴れて私もKnightsのプロデューサーになれたというわけだ。胸を張れと事情を知っている嵐ちゃんに背中を押され、私は凛月の元へ歩みを進めた。大きく深呼吸をして、凛月の前に立つ。

「凛月、これからもよろしくお願いします」
「ふふ。かしこまってるねぇ」

ライブ終わりだからか、しっとりとした熱に包まれている彼の色香が漂っているようだ。
紅潮した頬がひどく可愛らしくて高鳴る胸を必死に抑え、私は言おうとした。その前に、彼が当たり前というように私の頭を撫でる。

「これで名前はKnightsの一員だから。あんまり他のユニットと仲良くしないでね」

これが凛月なりの嫉妬だったらそれで良かった。ぎくりとした疑心には負けたくなくて無邪気に振る舞おうとした私の横をすり抜けて、警告をひとつ。

「特に兄者。UNDEADの仕事は引き受けなくていいから」

引き留める理由はない。私も彼も独占欲など持ってはいけないのだ。
ここにいるためにはそれを分からせる必要がある。嫌われたっていいから、今、私が示すべきだ。

「打ち上げでもしようか」
「い、いいわねぇ」
「では私がsweetsの準備を」
「待って」

祝杯をあげるシチュエーションに水を差すのは申し訳なかったが皆気付いていたようだった。
焦る周りに目もくれず凛月が一点に私を睨む。

「凛月、どうして?」
「そういう約束だったでしょ。これは契約だよ」
「納得出来ない。確かにKnightsは個々としても優れているけれど今後は合同ライブとかも増えてくる。私だけ他のユニットとの関わりをなくしてメリットなんてない」

意地になっているのか私の話を聞いてくれない凛月へ交渉。
あんずちゃんを見ていればよく分かる。それぞれ異なったやり方、メンバーの個性を理解してユニットに合ったステージを作り上げて。一つに固執していてはいずれ限界が来ると思うし、学生である私達が一ヵ所に留まる必要性はないとすら考えてしまう。

「俺は名前がKnightsのプロデュースが出来るまで待っていたよ。それが叶って、なんで離れる意味があるの?」
「もっと上に行きたいから」

意外だった。Knightsのためだけに心血を注ぐ私を凛月は待っていたというのか。でもそれってもったいないように感じる。色んな経験をしないとと言ってくれたのは凛月なのに、自分だってKnightsの枠だけに収まっているわけではないのに。

「俺が離したくないって言っても、行くの」
「……夢を見させてくれてありがとう。これからは私が、あなた達を輝かせるように頑張るから」

切ない台詞にも有無を言わさぬ圧力が加わっていたような気がして私はつい、嫌な言い方をしてしまった。
直接的な言い方を避けていることには気付いていたがもう、限界かもしれない。

「もちろんKnightsのプロデュースもやらせてほしい。Knightsはいつだって私の憧れだから私ももっと力を付けて、凛月みたいに視野を広げたいの」

三年生から学ぶこともあるし、一年生の視線を見習わなくてはと思うこともある。二年生と切磋琢磨してお互いを高め合うことだって出来る。
部活も委員会もクラスでの役割もすべて生かせれば学園生活はもっと豊かなものになる。その中には凛月だって含まれているというのに、どうしてそんなに、私だけ縛ろうとするのか。

「そうやって、見せ付けるの?」

敢えて言い返すならばそれを先にやって見せたのは貴方だ。
他人との距離をすでに縮めて大切な人をたくさん作っている凛月のことを改めて、羨ましいとも思ったしずるいという感情も抱いた。

「俺は名前のことが好きだよ」

だって私もあんな風に凛月の隣で笑いたかった。
からかわれて嫌がったり、じゃれあうように逃げ出したかった。

「名前が苦しんでいるとき、俺は傍にいない方がいいって思ったから何も言わなかった。でも結局名前を助けたのは兄者だったから今は後悔してる。離れなきゃ良かったって」

ふやけた視界を隠そうと下を向いたのに涙は勝手に床を濡らしていた。目元を抑えて彼の言葉を聞く。触れ合えない距離が物語っていた。

「俺もKnightsだから。今度こそ騎士として名前を守らせて」
「だから、専属なんて言ったの」
「傍にいてよ」

どうして今更そんなことを言うの、なんて伝えられない。やっと決めたのに、新しい自分になれると思ったのに。
凛月の真剣な目を見て心が揺らぐ。それ以上に、私はこの人のことになると周りが見えなくなってしまうのだ。
今でもそれは変わっていない。また前のように戻るのは嫌だった。

「ごめん……二の舞になっちゃうから、無理だよ」

残酷な選択。もう一度謝って、私は凛月の前から走り去った。
こうなることは予感していたように息を吐き出したのは、私のことを追いかけてきてくれた瀬名先輩だった。



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